アームチェア・ディティクデブ

「医師は暖房の履歴を知らなかった」
田所は静かに言った。
山岸が頷く。
「伝えていない」
「十九時二十七分から十九時五十八分まで、暖房は最大出力」
「そうだ」
「医師の推定は、発見時の室温を基準にしている」
夏野が補足する。
「一定の室温下での体温低下を前提にしています」
「暖房の影響は考慮されていない」
田所は続ける。
「十九時二十五分に悠真が入室。
十九時二十七分に暖房操作。
十九時二十九分に施錠」
山岸は言う。
「死亡推定が正しければ、十九時二十五分時点で被害者は生存していた可能性がある」
「そうだ」
田所は頷く。
「だから悠真が疑われる」
「だが」
山岸が睨む。
「暖房が死亡後に操作されたなら」
「推定は揺らぐ」
静寂。
「体温低下は環境に左右される。
室温を上げれば、死亡時刻は後ろにずれる」
夏野が小さく言う。
「十八時台死亡でも、十九時台と誤認される可能性がある」
「そうだ」
田所の声は静かだ。
「十九時二十五分に部屋にいたことは事実。
だが、その時すでに死亡していた可能性もある」
山岸は低く言う。
「つまり、死亡推定を前提にすると悠真が怪しい。
だが死亡推定が動くなら、話は変わる」
「その通りだ」
田所は微かに笑った。
「問題は、誰が十九時を作ったかだ」
暖房は十九時二十七分。
死亡推定は十九時十五分以降。
物音証言は十九時二十一分。
すべてが十九時台に揃う。
「揃いすぎている」
田所はそう言った。
「十九時が正しいのではない。
十九時に“寄せられている”」