翌日。
山岸はやや不機嫌な顔で事務所に現れた。
「一分単位で並べてきた」
「ご苦労」
田所は視線を上げない。
山岸は資料を机に置いた。
「十八時三十八分、秘書入室。
十八時四十分、息子入室。
十八時四十四分、息子退室。
十八時四十五分、玄関一度解錠。
十八時五十七分、秘書退室」
「続けて」
「十九時二十一分、隣人が物音を聞いたと推定。
十九時三十二分、島田が十八階通過。
十九時四十五分、弁護士が接続試行。
二十時十八分、警察が解錠」
田所は資料を見つめる。
「他に」
山岸は一枚、別の紙を差し出した。
「室内のスマート家電のログも取った」
夏野が顔を上げる。
山岸は続ける。
「十九時二十七分、暖房設定変更。
設定温度二十八度。
最大出力モード」
部屋の空気が、わずかに止まる。
田所の指が、ほんの一瞬だけ止まった。
「その前は」
「十八時五十分までは通常設定。二十二度。
十九時二十七分に急上昇。
十九時五十八分、自動停止」
静寂。
「誰が操作した」
「ログ上は居住者アプリ」
「秘書は」
「アプリ登録なし」
「息子は」
「登録済み」
夏野が小さく言う。
「十九時二十七分……物音証言より少し後ですね」
山岸が頷く。
「暖房と物音、直接の関係はないだろう」
田所は目を閉じた。
十九時二十七分。
死亡推定は十九時十五分から三十分。
暖房は、十九時二十七分。
「山岸さん」
「なんだ」
「医師は、室温をどのように評価していた」
「発見時は常温。特に異常なし」
「発見時は、か」
田所はゆっくりと息を吐いた。
「十九時二十七分に暖房を最大にする理由は」
山岸は肩をすくめる。
「寒かったんじゃないか」
「その日は外気温二十三度だ」
「……」
夏野が静かに言う。
「暖房を最大にするには、理由が要ります」
田所は視線を上げた。
「十九時二十七分に、室内で何があった?」
山岸は答えない。
代わりに資料を見下ろす。
「物音は十九時二十一分から二十三分。
暖房は十九時二十七分」
「死亡推定は」
「十九時十五分から三十分」
「なるほど」
田所は小さく笑った。
「やっと一つ、十九時に寄せきれていない数字が出た」
山岸が顔をしかめる。
「どういう意味だ」
「暖房は、遅い」
夏野が息を呑む。
「死亡後に操作された可能性がある、と?」
「可能性ではない」
田所はゆっくりと言った。
「十九時台に揃えようとして、揃いきれていない」
山岸の目が細くなる。
「つまり」
「誰かが十九時に寄せた」
甘いコーヒーの匂いが漂う。
田所は動かない。
だが、事件は動き始めていた。
山岸はやや不機嫌な顔で事務所に現れた。
「一分単位で並べてきた」
「ご苦労」
田所は視線を上げない。
山岸は資料を机に置いた。
「十八時三十八分、秘書入室。
十八時四十分、息子入室。
十八時四十四分、息子退室。
十八時四十五分、玄関一度解錠。
十八時五十七分、秘書退室」
「続けて」
「十九時二十一分、隣人が物音を聞いたと推定。
十九時三十二分、島田が十八階通過。
十九時四十五分、弁護士が接続試行。
二十時十八分、警察が解錠」
田所は資料を見つめる。
「他に」
山岸は一枚、別の紙を差し出した。
「室内のスマート家電のログも取った」
夏野が顔を上げる。
山岸は続ける。
「十九時二十七分、暖房設定変更。
設定温度二十八度。
最大出力モード」
部屋の空気が、わずかに止まる。
田所の指が、ほんの一瞬だけ止まった。
「その前は」
「十八時五十分までは通常設定。二十二度。
十九時二十七分に急上昇。
十九時五十八分、自動停止」
静寂。
「誰が操作した」
「ログ上は居住者アプリ」
「秘書は」
「アプリ登録なし」
「息子は」
「登録済み」
夏野が小さく言う。
「十九時二十七分……物音証言より少し後ですね」
山岸が頷く。
「暖房と物音、直接の関係はないだろう」
田所は目を閉じた。
十九時二十七分。
死亡推定は十九時十五分から三十分。
暖房は、十九時二十七分。
「山岸さん」
「なんだ」
「医師は、室温をどのように評価していた」
「発見時は常温。特に異常なし」
「発見時は、か」
田所はゆっくりと息を吐いた。
「十九時二十七分に暖房を最大にする理由は」
山岸は肩をすくめる。
「寒かったんじゃないか」
「その日は外気温二十三度だ」
「……」
夏野が静かに言う。
「暖房を最大にするには、理由が要ります」
田所は視線を上げた。
「十九時二十七分に、室内で何があった?」
山岸は答えない。
代わりに資料を見下ろす。
「物音は十九時二十一分から二十三分。
暖房は十九時二十七分」
「死亡推定は」
「十九時十五分から三十分」
「なるほど」
田所は小さく笑った。
「やっと一つ、十九時に寄せきれていない数字が出た」
山岸が顔をしかめる。
「どういう意味だ」
「暖房は、遅い」
夏野が息を呑む。
「死亡後に操作された可能性がある、と?」
「可能性ではない」
田所はゆっくりと言った。
「十九時台に揃えようとして、揃いきれていない」
山岸の目が細くなる。
「つまり」
「誰かが十九時に寄せた」
甘いコーヒーの匂いが漂う。
田所は動かない。
だが、事件は動き始めていた。



