新宿三丁目。
いつもの雑居ビル五階、田所探偵事務所。
事件が終わっても、部屋の中は何も変わらなかった。
机の上の書類の山も、胃薬の箱も、冷めかけたコーヒーも、昨日と同じ場所にある。
「……本当に、一歩も外に出ませんでしたね」
夏野が苦笑しながら言う。
「出る必要なかったからな」
田所は椅子に深く腰掛けたまま答えた。
「現場に行けば、俺も誰かの“見たい景色”を見ることになる。それじゃ、意味がない」
夏野は窓の外を見る。
新宿の街は、今日も騒がしく、人が溢れている。
「それでも、事件は全部、ここで解けました」
田所は机を軽く叩いた。
「人間は嘘をつく。だが、嘘は必ず“形”を残す。その形を読むだけだ」
「……最初は探偵って、もっと派手な仕事だと思ってました」
「派手なのは刑事の仕事だ。探偵は、ただ座って、人間の嘘を待つ」
田所は、また胃薬を一粒飲みながら言った。
「歩かなくても、真実の方から勝手にやって来る。こっちは、それを逃がさないだけだ」
ネオンが窓に滲む。
田所雄三は今日も、現場に行かず、椅子から動かず、ただ静かに、次の嘘が壊れるのを待っていた。
いつもの雑居ビル五階、田所探偵事務所。
事件が終わっても、部屋の中は何も変わらなかった。
机の上の書類の山も、胃薬の箱も、冷めかけたコーヒーも、昨日と同じ場所にある。
「……本当に、一歩も外に出ませんでしたね」
夏野が苦笑しながら言う。
「出る必要なかったからな」
田所は椅子に深く腰掛けたまま答えた。
「現場に行けば、俺も誰かの“見たい景色”を見ることになる。それじゃ、意味がない」
夏野は窓の外を見る。
新宿の街は、今日も騒がしく、人が溢れている。
「それでも、事件は全部、ここで解けました」
田所は机を軽く叩いた。
「人間は嘘をつく。だが、嘘は必ず“形”を残す。その形を読むだけだ」
「……最初は探偵って、もっと派手な仕事だと思ってました」
「派手なのは刑事の仕事だ。探偵は、ただ座って、人間の嘘を待つ」
田所は、また胃薬を一粒飲みながら言った。
「歩かなくても、真実の方から勝手にやって来る。こっちは、それを逃がさないだけだ」
ネオンが窓に滲む。
田所雄三は今日も、現場に行かず、椅子から動かず、ただ静かに、次の嘘が壊れるのを待っていた。



