探偵研究部。――カケラノセカイ―― ③ サマーゲームパーティー

 夏休みの間中、世間を騒がせていた「ゲームの達人」こと「ゲームマスター」による怪事件は、中学生・QUEENとして紛れ込んだイワン(本物)と、自称・ユーチューバーの安田六郎と名乗る実行犯二人よる犯行だった。
 四月に捕まったイワンは、どこかのタイミングで偽物にすり替わっていたらしい。

 そんなエキセントリックな事件に、世間が盛り上がったのは数週間前。
 お盆を境に、ようやく周りが落ち着き日常が戻りつつあった。
 もちろん、警察ではまだ容疑者二人に対して捜査がすすめられていた――。

 夏休みが終わり、三人が久しぶりに探偵研究部の部室のドアを開けると、ツインテールを揺らし、勢いよく飛び込んできたのは智子だった。

「未知! 会いたかったよ!」

 智子は勢いそのままに未知に抱きつく。
 未知は突然のことに驚きながらも、どこか懐かしい日常の光景に、ほっと息を漏らした。

「元気だった? もー! 連絡くれなくて寂しかったんだから!」

 半泣きの智子がそういうから、

「智子、ありがとう。あのお守り、本当にお守りだった!」

 感謝の思いを込め、ぎゅう! と智子を抱きしめ返した。

 未知のなくなったブレスレットの水晶は、樹海の現場に散らばり落ちていた。そのことで、現場検証が極めて難しい樹海の中でも、場所を特定することが出来ていたのだ。

「でも、樹海の中でなくなっちゃったけど……」

 申し訳なさそうに笑えば、智子は目に涙をためて

「何個だって新しいの作ってあげる!」

 そう言って、また未知を抱きしめた。

「本当にご利益あるんじゃん! 売っていこ!」

 チャラチャラと茶髪をなびかせながら高杉が茶化すように言う姿に、平屋は「相変わらず、チャラいですね」と鼻で笑う。

 少しガタのきた学習椅子をギギギと引いて腰をかけしみじみと呟いた。

「しっかし、大変な夏休みだったなあ。
 四月に捕まえたイワンがいつの間にかどっかですりかわってたんでしょ?
 本物の方は、ゲームマスターとしてこんな大掛かりな事件まで起こして。そのうえ参加している中学生に化けてたなんて。
 どこの怪人二十面相かよ! って思いました。

 ……僕たち、よく戻って来れましたよね」

 小川は、絆創膏がいっぱいになった腕をさすりながら、のっしりと席に着く。
「まあ、『勝手なことすんな!』って佐藤刑事には散々怒られて、組手と称してぼこぼこにされたしな」

 改めて部室をぐるっと見回した。

「でもまあ、今ここに全員そろってることのほうが何よりだよ」

 そう言うと、ちょっと皆の目元が潤むように見えた。
 ――柄にもなくまじめな返しをしたことに、小川は照れて、おどけた声で続けた。

「まあ? 先輩のおれとしては、後輩たちの成長を見ることができて、嬉しいかぎりですよ。
 さーて、優秀な頭脳の未知さんは、どんなお礼をしてくれるのかなあ?」

(でた、また敬語!)
 平屋はにやりとした。

 未知は、今度こそほっとしたように

「本当に、お世話になりました!」

 深々と頭を下げる。
 
 顔を上げた未知の満面の笑顔に、小川はつられたように笑った。

「そこで、うちの家族からせめてものお礼にって! ぜひうちの庭でバーベキューに来なさいって! 花火もやっていいよ! って!」

 未知が笑顔で提案すると、高杉が「ヒュー!」と指笛を鳴らした。

「肉! 肉!」
「焼きトウモロコシ!」
「マシュマロ」
 
 にぎやかな声がトタン屋根の部室からこぼれてきた。

 *****

 後日。
 マタロウと一緒に歩く猫背の影。

「俺まで行っていいのかよ!」

 小さな手土産と花束をもって照れくさそうに歩く小笠原がいた。

「お前、ヒーローじゃん。女の子たちから『六分儀の君!』って言われてるんだろ?」

 たしかに、あの日一緒にSOSを出し続けたさっちんとハムスターからは、しょっちゅうチャットが来ている。
 が……。

「なにその二つ名、やめろ!」

 文句を言いながらも、小笠原はマタロウについて有栖川邸に向かった。

 賑やかな夕暮れになりそうな予感。未知には、小夜啼鳥(さよなきどり)の声が聞こえたような気がした。



(探偵研究部。――カケラノセカイーー ③サマーゲームパーティー・完)


※ナイチンゲール(小夜啼鳥):アンデルセン童話のナイチンゲールは、誰よりも正しいものは何か、美しいものは何かを知る鳥として描かれる。