足場を確認しながら、上へ、上へと向かっていく。
キュービーが正しい時間に合わせた時計は、すでに夕方六時を回っていた。
足元はすっかりと暗く、鬱蒼とした木々の合間からのぞく空には、すでに星が瞬き始めている。
小笠原の言うとおり、本当に上に国道があるのか?
あるいは、樹海深く迷い込んでいるだけなのか?
身体はもはや言うことを聞かず、立ち止まったら最後、スイッチが切れたように崩れ落ちてしまいそうだった。
その時だ。
遠くから「バリバリバリバリ」と、耳をつんざく音が――ヘリコプターの爆音が聞こえてきた。
「救援か!?」
皆が一斉に顔を上げた。
ヘリコプターの強烈なサーチライトが、上空から彼らを照らし出す。
「おーい!」
「ここだ、ここだ!」
皆は歓声を上げ、ちぎれるほど手を振り、ジャンプして騒ぎ出した。
その眩い光を見て、未知はほうっと深く安堵の息を吐く。
そして――。
皆の歓喜の声の中、ふと違和感を覚えた。
QUEENと繋がっている自分の右手に、何のリアクションもないのだ。不審に思った未知は隣を見上げ、息を呑んだ。
皆が上空のヘリコプターに注目している中、彼だけは違った。
悲鳴を上げようとした未知の口は、彼の空いたもう片方の手のひらで塞がれた。
グローブを外した、その素手には――。
――あの『傷』が!
呆然と、目の前の男を見る。
そこにはもう、QUEENと名乗る、気のいいロック好きの少年はいなかった。
間違いない。
イワンだ。
緑色の瞳を狂気に歪ませているその姿は、あの頃と全く同じだった。
「コマドリを殺したのは、だ――れだ?」
歌うように、イワンは囁いた。
「Who killed Cock Robin? I, said the Sparrow,
(誰が駒鳥殺したの? それは私、とスズメが言った)
with my bow and arrow, I killed Cock Robin.
(私の弓で、私の矢羽で、私が殺した、駒鳥を)
All the birds of the air fell a-sighing and a-sobbing,
(空の上の小鳥たちは、ため息をついてすすり泣いた)
when they heard the bell toll for poor Cock Robin.
(みんなが聞いた、かわいそうな駒鳥のお葬式の鐘を)
The birds all mourned, but a secret they kept.
(鳥たちは皆嘆き悲しんだが、秘密を胸に抱えたままだった)
For the one who killed him,
(なぜなら、彼を殺したのは、彼らが言った人物ではなかったのだ)
was not who they said. In the end, it was a friend.」
(――結局、殺したのは『友人』だったのだ)
イワンの声は、冷酷で試すような響きを帯びていた。
「そうだよ、未知。みんな知ってる。でも、知らないふりをしている。
君が作ったんじゃないか、あの起爆装置。そう、優しかった神父さん、教会と一緒にお別れ。君が殺したんじゃないか、オルゴールだなんて嘘をついて」
イワンの言葉に、未知の顔からさあっと血の気が引いた。
足元が、タールのように真っ黒な地中にずぶずぶと引きずり込まれる感覚。
凍えるような荒い息が、はあ、はあ、と肺から絞りだされる。
視界の色彩が暗く塗りこめられていく。見えるのは、彼岸のように笑うその緑色の瞳だけ――。
「もしもまた捕まっちゃったら、今度は僕が、君に殺されちゃうね。
ねえ、僕の『友達』――」
ねっとりとしたその声に、目を閉ざし、耳を塞ぎそうになる。
その瞬間だ。
『――明るい方に、もがけ!』
誰かの声が、聞こえた気がした。
はっと、未知は顔を上げる。
「未知! これを使え!」
平屋の鋭い声と同時に、サーチライトの光を反射して、キラリと何かが目の前に投げられた。
その予想外の光の反射が、イワンの緑の瞳に一瞬の隙を生む。
鍵だ!
未知は宙を舞ったそれをとっさに左手でつかみ取り、迷わず右の手首の鍵穴に差し込んだ。
カチリ! 難なくそれは回る。
「何をするんだ、未知!」
慌てたイワンの制止を振り切り、ガチャリ。
忌まわしい手錠が、未知の手から離れた。
と同時に──。
ドドドッという空気の激しい振動の中、
「おりゃあああ!!!」
ものすごい小川の怒号が響き渡った。
未知が顔を上げたときには、小川の一本背負いで、宙を舞って遠くに投げ飛ばされたイワンの姿があった。
「小川先輩!」
未知は感情のままに叫んだ。
「ドサッ!」
地面に叩きつけられたイワンの体を、間髪入れずに佐藤刑事とみゆお刑事が力強く押さえつけた―ー。
キュービーが正しい時間に合わせた時計は、すでに夕方六時を回っていた。
足元はすっかりと暗く、鬱蒼とした木々の合間からのぞく空には、すでに星が瞬き始めている。
小笠原の言うとおり、本当に上に国道があるのか?
あるいは、樹海深く迷い込んでいるだけなのか?
身体はもはや言うことを聞かず、立ち止まったら最後、スイッチが切れたように崩れ落ちてしまいそうだった。
その時だ。
遠くから「バリバリバリバリ」と、耳をつんざく音が――ヘリコプターの爆音が聞こえてきた。
「救援か!?」
皆が一斉に顔を上げた。
ヘリコプターの強烈なサーチライトが、上空から彼らを照らし出す。
「おーい!」
「ここだ、ここだ!」
皆は歓声を上げ、ちぎれるほど手を振り、ジャンプして騒ぎ出した。
その眩い光を見て、未知はほうっと深く安堵の息を吐く。
そして――。
皆の歓喜の声の中、ふと違和感を覚えた。
QUEENと繋がっている自分の右手に、何のリアクションもないのだ。不審に思った未知は隣を見上げ、息を呑んだ。
皆が上空のヘリコプターに注目している中、彼だけは違った。
悲鳴を上げようとした未知の口は、彼の空いたもう片方の手のひらで塞がれた。
グローブを外した、その素手には――。
――あの『傷』が!
呆然と、目の前の男を見る。
そこにはもう、QUEENと名乗る、気のいいロック好きの少年はいなかった。
間違いない。
イワンだ。
緑色の瞳を狂気に歪ませているその姿は、あの頃と全く同じだった。
「コマドリを殺したのは、だ――れだ?」
歌うように、イワンは囁いた。
「Who killed Cock Robin? I, said the Sparrow,
(誰が駒鳥殺したの? それは私、とスズメが言った)
with my bow and arrow, I killed Cock Robin.
(私の弓で、私の矢羽で、私が殺した、駒鳥を)
All the birds of the air fell a-sighing and a-sobbing,
(空の上の小鳥たちは、ため息をついてすすり泣いた)
when they heard the bell toll for poor Cock Robin.
(みんなが聞いた、かわいそうな駒鳥のお葬式の鐘を)
The birds all mourned, but a secret they kept.
(鳥たちは皆嘆き悲しんだが、秘密を胸に抱えたままだった)
For the one who killed him,
(なぜなら、彼を殺したのは、彼らが言った人物ではなかったのだ)
was not who they said. In the end, it was a friend.」
(――結局、殺したのは『友人』だったのだ)
イワンの声は、冷酷で試すような響きを帯びていた。
「そうだよ、未知。みんな知ってる。でも、知らないふりをしている。
君が作ったんじゃないか、あの起爆装置。そう、優しかった神父さん、教会と一緒にお別れ。君が殺したんじゃないか、オルゴールだなんて嘘をついて」
イワンの言葉に、未知の顔からさあっと血の気が引いた。
足元が、タールのように真っ黒な地中にずぶずぶと引きずり込まれる感覚。
凍えるような荒い息が、はあ、はあ、と肺から絞りだされる。
視界の色彩が暗く塗りこめられていく。見えるのは、彼岸のように笑うその緑色の瞳だけ――。
「もしもまた捕まっちゃったら、今度は僕が、君に殺されちゃうね。
ねえ、僕の『友達』――」
ねっとりとしたその声に、目を閉ざし、耳を塞ぎそうになる。
その瞬間だ。
『――明るい方に、もがけ!』
誰かの声が、聞こえた気がした。
はっと、未知は顔を上げる。
「未知! これを使え!」
平屋の鋭い声と同時に、サーチライトの光を反射して、キラリと何かが目の前に投げられた。
その予想外の光の反射が、イワンの緑の瞳に一瞬の隙を生む。
鍵だ!
未知は宙を舞ったそれをとっさに左手でつかみ取り、迷わず右の手首の鍵穴に差し込んだ。
カチリ! 難なくそれは回る。
「何をするんだ、未知!」
慌てたイワンの制止を振り切り、ガチャリ。
忌まわしい手錠が、未知の手から離れた。
と同時に──。
ドドドッという空気の激しい振動の中、
「おりゃあああ!!!」
ものすごい小川の怒号が響き渡った。
未知が顔を上げたときには、小川の一本背負いで、宙を舞って遠くに投げ飛ばされたイワンの姿があった。
「小川先輩!」
未知は感情のままに叫んだ。
「ドサッ!」
地面に叩きつけられたイワンの体を、間髪入れずに佐藤刑事とみゆお刑事が力強く押さえつけた―ー。



