探偵研究部。――カケラノセカイ―― ③ サマーゲームパーティー

 足場を確認しながら、上へ、上へと向かっていく。
 キュービーが正しい時間に合わせた時計は、すでに夕方六時を回っていた。
 足元はすっかりと暗く、鬱蒼とした木々の合間からのぞく空には、すでに星が瞬き始めている。

 小笠原の言うとおり、本当に上に国道があるのか?
 あるいは、樹海深く迷い込んでいるだけなのか?
 身体はもはや言うことを聞かず、立ち止まったら最後、スイッチが切れたように崩れ落ちてしまいそうだった。

 その時だ。

 遠くから「バリバリバリバリ」と、耳をつんざく音が――ヘリコプターの爆音が聞こえてきた。

「救援か!?」

 皆が一斉に顔を上げた。
 ヘリコプターの強烈なサーチライトが、上空から彼らを照らし出す。

「おーい!」
「ここだ、ここだ!」

 皆は歓声を上げ、ちぎれるほど手を振り、ジャンプして騒ぎ出した。
 その眩い光を見て、未知はほうっと深く安堵の息を吐く。

 そして――。
 皆の歓喜の声の中、ふと違和感を覚えた。
 QUEENと繋がっている自分の右手に、何のリアクションもないのだ。不審に思った未知は隣を見上げ、息を呑んだ。

 皆が上空のヘリコプターに注目している中、彼だけは違った。
 悲鳴を上げようとした未知の口は、彼の空いたもう片方の手のひらで塞がれた。

 グローブを外した、その素手には――。

 ――あの『傷』が!

 呆然と、目の前の男を見る。
 そこにはもう、QUEENと名乗る、気のいいロック好きの少年はいなかった。

 間違いない。
 イワンだ。
 緑色の瞳を狂気に歪ませているその姿は、あの頃と全く同じだった。

「コマドリを殺したのは、だ――れだ?」

 歌うように、イワンは囁いた。

「Who killed Cock Robin? I, said the Sparrow,
(誰が駒鳥殺したの? それは私、とスズメが言った)
 with my bow and arrow, I killed Cock Robin.
(私の弓で、私の矢羽で、私が殺した、駒鳥を)
 All the birds of the air fell a-sighing and a-sobbing,
(空の上の小鳥たちは、ため息をついてすすり泣いた)
 when they heard the bell toll for poor Cock Robin.
(みんなが聞いた、かわいそうな駒鳥のお葬式の鐘を)
 The birds all mourned, but a secret they kept.
(鳥たちは皆嘆き悲しんだが、秘密を胸に抱えたままだった)
 For the one who killed him,
(なぜなら、彼を殺したのは、彼らが言った人物ではなかったのだ)
 was not who they said. In the end, it was a friend.」
(――結局、殺したのは『友人』だったのだ)

 イワンの声は、冷酷で試すような響きを帯びていた。

「そうだよ、未知。みんな知ってる。でも、知らないふりをしている。
 君が作ったんじゃないか、あの起爆装置。そう、優しかった神父さん、教会と一緒にお別れ。君が殺したんじゃないか、オルゴールだなんて嘘をついて」

 イワンの言葉に、未知の顔からさあっと血の気が引いた。

 足元が、タールのように真っ黒な地中にずぶずぶと引きずり込まれる感覚。
 凍えるような荒い息が、はあ、はあ、と肺から絞りだされる。
 視界の色彩が暗く塗りこめられていく。見えるのは、彼岸のように笑うその緑色の瞳だけ――。

「もしもまた捕まっちゃったら、今度は僕が、君に殺されちゃうね。
ねえ、僕の『友達』――」

 ねっとりとしたその声に、目を閉ざし、耳を塞ぎそうになる。

 その瞬間だ。

『――明るい方に、もがけ!』

 誰かの声が、聞こえた気がした。
 はっと、未知は顔を上げる。

「未知! これを使え!」

 平屋の鋭い声と同時に、サーチライトの光を反射して、キラリと何かが目の前に投げられた。
 
その予想外の光の反射が、イワンの緑の瞳に一瞬の隙を生む。

 鍵だ!

 未知は宙を舞ったそれをとっさに左手でつかみ取り、迷わず右の手首の鍵穴に差し込んだ。

 カチリ! 難なくそれは回る。


「何をするんだ、未知!」

 慌てたイワンの制止を振り切り、ガチャリ。
 忌まわしい手錠が、未知の手から離れた。

 と同時に──。

 ドドドッという空気の激しい振動の中、

「おりゃあああ!!!」

 ものすごい小川の怒号が響き渡った。
 未知が顔を上げたときには、小川の一本背負いで、宙を舞って遠くに投げ飛ばされたイワンの姿があった。

「小川先輩!」

 未知は感情のままに叫んだ。

「ドサッ!」

 地面に叩きつけられたイワンの体を、間髪入れずに佐藤刑事とみゆお刑事が力強く押さえつけた―ー。