――少し時間は遡る。
皆がクルーザーから上陸し、ビスケットと水分をとって休んでいた時のことだ。
ほっとした空気が流れ、がやがやと騒がしい中で、誰も二人の会話を気にとめる者はいなかった。
「君、無線機が使えるの?」
小笠原(スパロウ)は、隣に座るハムスターに聞いた。
「うん。ただ、クルーザーの無線は、モニターと一緒に断線してた。降りる前にもしかしてと思って操舵室を見たの」
「よく見てたな。……にしても、ゲームマスター……とことんこっちを孤立無援にしたいんだな」
「うん。でも、まだ手はあるよ」
ハムスターは小笠原の目を見て確信めいたように頷く。
「手?」
小笠原は思わず声をひそめた。
「実は私――」
その後の言葉は、ゲームマスターの登場によって遮られてしまった。
******
そして現在。
別行動をとった三人は、樹海の中に取り残されていた。
ハムスターは、肩から下げていた布製のショルダーバッグから、その小さな機械を取り出した。トランシーバーのような形のそれには、いくつものボタンとチューニング用のダイヤルがついている。
「……ハム(アマチュア無線技士)だったのか……!」
小笠原は驚きを隠せない。
小動物のハムスターじゃない。ガチガチのガジェットの方だったーー。
「うん。普段は電源を落としているから、主催の方ではお咎めなかったのかな? スマホでもないし、持ち込んじゃった」
「確かに、厳密に言えば『アナログ』の電波送受信機だ。『デジタル機器』……ってわけでもないしな」
小笠原の皮肉気な言葉に、ハムスターは笑った。
「変わった趣味でしょ。でも、スパロウ君が六分儀でパーティーの場所を特定したかったのと同じ。私も、このサマーゲームパーティーから発信したかったの。
ーーまさか、こんなゲームになるなんて思ってもみなかったけど。ただ、電波を……遮らない場所に出なくちゃならない」
「だから、さっちんが必要だったんだ」
小笠原は右隣のさっちんに目を向ける。
「え? あたし?」
突如ふられたさっちんが、驚いたように声を上げる。
「君は唯一、懐中電灯を持っていた。それはただ足元を照らすだけじゃない!
さあ、いこう。 なるべく湖の岸へ戻るんだ。あっちの方が遮るものがなく、電波が飛ぶ!」
スパロウは力強く言った。
「でも、なんでみんなに内緒で別働隊にしたの?」
歩きながら、さっちんが不思議そうに尋ねた。
「俺たち三人で山を登り切るのは、体力的に無理だと思ったからさ。だけど……理由はもう一つある」
「もう一つ?」
「あの詩だよ。――『コマドリを殺したのは、スパロウではなく、友人』。ゲームマスターがわざわざ付け足した、あの言葉がずっと気になっていたんだ」
その言葉に、二人は息を飲んだ。
「『友人』……つまり、裏切り者が本当にこの二十一人の中に紛れ込んでいるのなら。君たちのアマチュア無線と懐中電灯だけは、絶対に奪われてはいけない。そう思ったんだ」
小笠原を中心に、三人は暗闇が迫る湖岸を目指していた。
「僕達には、僕達しかできない役割がある。星さえ出れば、僕はどんな場所でもそこがどこか分かる! だから君たちも!」
******
「なんか、あいつら変だったと思わないか?」
未知と手錠で繋がれたQUEENが、足場の悪い岩場を先頭になって歩きながら口を開いた。力のない未知の手首を握り、段差の上へと引っ張り上げながら言う。
「あいつら? スパロウのこと?」
未知は息を切らしながら首をかしげた。
「ほかの二人はよくわかんないけど、あのスパロウは、ずっとダントツのトップランカーだよ? 運営側の人間だったとしても不思議じゃない。
しかも、あの『コマドリを殺したのは誰?』って詩。本来の犯人は『スパロウ』だ。もしかして……あいつがスパイなんじゃないか? 何か、あいつらだけ残った理由があったのかも……」
チャーミーが怯えたように身を震わせる。
「何かって……何?」
「例えば……国道が上にあるってさっきの情報自体が『嘘』だったら? 俺たち、ますますこの樹海の奥深くに進むことになるんじゃないか!?」
その言葉に、チョコレートが声を上げる。
「くそ! あいつ……!」
「おい! じゃあ戻ったほうが良いんじゃないか!」
タコ星人が苛立ったように叫び、ジェダイが来た道を引き返そうと立ち止まる。
「ちょっ、ちょっと待って!」
未知があわてて止めようとするが、ぐらりと足場が揺れ、またQUEENに支えられた。
パニックが連鎖しそうになったその時。一番上を歩いていたキュービーが、腹の底から声を張り上げた。
「待て! バラバラに動くな! それこそ危険だ!」
びくりと、全員の動きが止まる。
「とにかく、固まって上へ向かう。それしか俺たちの活路はないんだ! いいな! 不安なのは皆一緒だ。憶測でパニックになるな!」
キュービーの力強い声が樹海に響く。
その声にハッとしたように、ベロンチョが震える声で言った。
「うん……そう。みんな一緒のほうが、生存率があがる……。このまんま、進もう……」
キュービーの一喝で、なんとか踏みとどまった本隊。
彼らは疑心暗鬼を抱えながらも、再び鬱蒼とした斜面を登り始めた。
皆がクルーザーから上陸し、ビスケットと水分をとって休んでいた時のことだ。
ほっとした空気が流れ、がやがやと騒がしい中で、誰も二人の会話を気にとめる者はいなかった。
「君、無線機が使えるの?」
小笠原(スパロウ)は、隣に座るハムスターに聞いた。
「うん。ただ、クルーザーの無線は、モニターと一緒に断線してた。降りる前にもしかしてと思って操舵室を見たの」
「よく見てたな。……にしても、ゲームマスター……とことんこっちを孤立無援にしたいんだな」
「うん。でも、まだ手はあるよ」
ハムスターは小笠原の目を見て確信めいたように頷く。
「手?」
小笠原は思わず声をひそめた。
「実は私――」
その後の言葉は、ゲームマスターの登場によって遮られてしまった。
******
そして現在。
別行動をとった三人は、樹海の中に取り残されていた。
ハムスターは、肩から下げていた布製のショルダーバッグから、その小さな機械を取り出した。トランシーバーのような形のそれには、いくつものボタンとチューニング用のダイヤルがついている。
「……ハム(アマチュア無線技士)だったのか……!」
小笠原は驚きを隠せない。
小動物のハムスターじゃない。ガチガチのガジェットの方だったーー。
「うん。普段は電源を落としているから、主催の方ではお咎めなかったのかな? スマホでもないし、持ち込んじゃった」
「確かに、厳密に言えば『アナログ』の電波送受信機だ。『デジタル機器』……ってわけでもないしな」
小笠原の皮肉気な言葉に、ハムスターは笑った。
「変わった趣味でしょ。でも、スパロウ君が六分儀でパーティーの場所を特定したかったのと同じ。私も、このサマーゲームパーティーから発信したかったの。
ーーまさか、こんなゲームになるなんて思ってもみなかったけど。ただ、電波を……遮らない場所に出なくちゃならない」
「だから、さっちんが必要だったんだ」
小笠原は右隣のさっちんに目を向ける。
「え? あたし?」
突如ふられたさっちんが、驚いたように声を上げる。
「君は唯一、懐中電灯を持っていた。それはただ足元を照らすだけじゃない!
さあ、いこう。 なるべく湖の岸へ戻るんだ。あっちの方が遮るものがなく、電波が飛ぶ!」
スパロウは力強く言った。
「でも、なんでみんなに内緒で別働隊にしたの?」
歩きながら、さっちんが不思議そうに尋ねた。
「俺たち三人で山を登り切るのは、体力的に無理だと思ったからさ。だけど……理由はもう一つある」
「もう一つ?」
「あの詩だよ。――『コマドリを殺したのは、スパロウではなく、友人』。ゲームマスターがわざわざ付け足した、あの言葉がずっと気になっていたんだ」
その言葉に、二人は息を飲んだ。
「『友人』……つまり、裏切り者が本当にこの二十一人の中に紛れ込んでいるのなら。君たちのアマチュア無線と懐中電灯だけは、絶対に奪われてはいけない。そう思ったんだ」
小笠原を中心に、三人は暗闇が迫る湖岸を目指していた。
「僕達には、僕達しかできない役割がある。星さえ出れば、僕はどんな場所でもそこがどこか分かる! だから君たちも!」
******
「なんか、あいつら変だったと思わないか?」
未知と手錠で繋がれたQUEENが、足場の悪い岩場を先頭になって歩きながら口を開いた。力のない未知の手首を握り、段差の上へと引っ張り上げながら言う。
「あいつら? スパロウのこと?」
未知は息を切らしながら首をかしげた。
「ほかの二人はよくわかんないけど、あのスパロウは、ずっとダントツのトップランカーだよ? 運営側の人間だったとしても不思議じゃない。
しかも、あの『コマドリを殺したのは誰?』って詩。本来の犯人は『スパロウ』だ。もしかして……あいつがスパイなんじゃないか? 何か、あいつらだけ残った理由があったのかも……」
チャーミーが怯えたように身を震わせる。
「何かって……何?」
「例えば……国道が上にあるってさっきの情報自体が『嘘』だったら? 俺たち、ますますこの樹海の奥深くに進むことになるんじゃないか!?」
その言葉に、チョコレートが声を上げる。
「くそ! あいつ……!」
「おい! じゃあ戻ったほうが良いんじゃないか!」
タコ星人が苛立ったように叫び、ジェダイが来た道を引き返そうと立ち止まる。
「ちょっ、ちょっと待って!」
未知があわてて止めようとするが、ぐらりと足場が揺れ、またQUEENに支えられた。
パニックが連鎖しそうになったその時。一番上を歩いていたキュービーが、腹の底から声を張り上げた。
「待て! バラバラに動くな! それこそ危険だ!」
びくりと、全員の動きが止まる。
「とにかく、固まって上へ向かう。それしか俺たちの活路はないんだ! いいな! 不安なのは皆一緒だ。憶測でパニックになるな!」
キュービーの力強い声が樹海に響く。
その声にハッとしたように、ベロンチョが震える声で言った。
「うん……そう。みんな一緒のほうが、生存率があがる……。このまんま、進もう……」
キュービーの一喝で、なんとか踏みとどまった本隊。
彼らは疑心暗鬼を抱えながらも、再び鬱蒼とした斜面を登り始めた。



