「痛い! 引っ張らないで!」
「わあ、ごめん!」
手錠で繋がれた子どもたちから、あちこちで悲鳴が上がった。
足場の悪い樹海だ。その上手首には手錠。皆はバランスを崩さないよう、慎重に進んでいた。
「みんな、ごめん! ちょっと待って!」
おぶちゃんが声を上げた。
「マステで枝に目印してたけど、もう、マステなくなっちゃった……」
キュービーが疲れを隠せないまま、それでも声を上げる。
「みんな、飲水はまだあるか?」
「ああ。節約して飲むように、ナイチンゲールが言ってたからな」
後続を歩くチョコレートが答えた。
未知(ナイチンゲール)の右手も、クイーンの左手首につながっている。その手首には、転んだりバランスを崩したりする度に強く引かれた跡が、すでにアザとなりかけていた。
みんながそんな状態だ。極限状態で限界を迎えている。
下は溶岩が固まった岩場。濡れた靴と慣れない足場で怪我をする者もいた。
「ごめんね。これ、最後の絆創膏なんだ。靴ずれに使って」
YUMAが差出した絆創膏を、皮のめくれた踵にOPAPIは貼り付けた。
どこもかしこもむせかえるような緑。
頭上から日は降り注ぐものの、足元は苔むした岩とシダに覆われ、いま何時でどこにいるのか、見当もつかない。
皆がすがるような目で一斉に小笠原(スパロウ)を見た。
小笠原の両隣には、さっちん、ハムスターがいる。ここだけは三人で組んでいた。
「……分かった。ここは拓けてるから、ちょっと休憩しよう」
一度、みなその場に腰を降ろした。
「もー。お気に入りのスカートがボロボロ!」
ゴスロリのレースが引き裂かれたチャーミーが涙目になりながら言えば、
「なんでそんなん履いてきたん?」
と、Tシャツとジーンズのタコ星人が呆れたように言う。
「ファッションのこだわりはアイデンティティなんだよ!」
スタッズ付きの皮ベストが光るQUEENが同調する。
その間、さっちんがリュックから取り出した六分儀を小笠原が構え、太陽に照準を合わせる。ハムスターが持つノートに、小笠原は右手で数式を書き込んだ。
そして、一つため息をついてから告げた。
「正確な時間だ。午後四時半。日没は六時半ごろだ」
チョコレートは大きく息を吐いた。
「……ここは樹海だから、日が入らなくなるのはもっと早い。あと一時間ほどで暗くなるだろう」
その言葉に、皆の顔に焦りの色が浮かんだ。
――暗くなる。
その前になんとか手錠の鍵を見つけなければならない。
******
午後一時半――。
小笠原が時間を割り出した直後に、ゲームマスターが彼らに課した最後のゲームは絶望的なものだった。
樹海に入る前に、ゲームマスターは小さく銀色に光る鍵を見せた。
「さあ、こんどはみんなで、宝探しをします。
これは、みんなの手錠の鍵。これを探します。
樹海の中にすでに、ほら、こんな風に宝箱に入れて何個か隠している」
ゲームマスターは小さなおもちゃの宝箱を見せる。プラスチック製の安物だ。
「どれも同じ鍵だから、一つでも見つかれば、超ラッキー。みんな無事に家に帰れる。
もしも見つからなかったら……。その時は、さあ、どうなるだろうね。
君たちの幸運と健闘を祈るよ」
そう言ってゲームの達人は、マントを翻して樹海の奥へ消え、彼らはそれを追うようにこの苔むした天然の迷路に入り込んだ。
******
それが三時間前。
「こうしちゃいられないな。動かなきゃ」
キュービーが重い腰を上げると、いぬだいすきも腰をあげた。
「辺りはどんどん暗くなる! とにかく皆が声の届くところで、離れないことよ!」
未知も声を上げると、QUEENと共に立ち上がった。
「はい。提案」
小笠原が、両方にかかる手錠の右手をちょっとだけ上げる。
「俺たち三人は、ここで脱落(リタイア)する」
隣にいるハムスターとさっちんも、口をしっかり結んでうなずいた。
「考えても見ろ! 二人に挟まれてこの足場だ。木と木の間隔も狭いし、溶岩の穴だらけで、これ以上進めない」
「でも……」
未知は不安げに瞳を揺らした。
キュービーは、ぐっとこらえるように口元を結んでから言った。
「分かった……。必ず、『助け』を呼ぶから、それまで待ってろよ!」
小笠原は、にい、と口の端を上げて笑った。
「そうそう――そのとおり。さすが腹筋。
――俺たちが探すのは、『鍵』じゃない。『助け』だ」
「え?」
未知が聞き返した。
「この樹海。じつは周遊のための国道が通ってる。
さっきからずっと先導していたはずのゲームマスターの気配はない。俺たちは、ずっと、何の思考もなく、鍵だけを探し続けている。
湖上クイズと同じ……。これは、『罠』だ。俺たちが、この樹海で何時間も彷徨(さまよ)うように」
「……どうして?」
未知の言葉に、小笠原は首を振る。
「それは、わからない。でも、一番確実なのは、このゲームそのものを『終わらせる』ことだ。そうだろ?」
「そうだ」
「そうだ」
皆が立ち上がった。
「上に登って行くんだ。そうすれば国道に出る。みんな、気を付けて」
小笠原のその言葉を背に、キュービーは「よし、行くぞ」と皆を先導する。
そして、皆の姿が緑の中に見えなくなってから、小笠原はさっちんとハムスターに言った。
「じゃあ、こっちもはじめよう」
「わあ、ごめん!」
手錠で繋がれた子どもたちから、あちこちで悲鳴が上がった。
足場の悪い樹海だ。その上手首には手錠。皆はバランスを崩さないよう、慎重に進んでいた。
「みんな、ごめん! ちょっと待って!」
おぶちゃんが声を上げた。
「マステで枝に目印してたけど、もう、マステなくなっちゃった……」
キュービーが疲れを隠せないまま、それでも声を上げる。
「みんな、飲水はまだあるか?」
「ああ。節約して飲むように、ナイチンゲールが言ってたからな」
後続を歩くチョコレートが答えた。
未知(ナイチンゲール)の右手も、クイーンの左手首につながっている。その手首には、転んだりバランスを崩したりする度に強く引かれた跡が、すでにアザとなりかけていた。
みんながそんな状態だ。極限状態で限界を迎えている。
下は溶岩が固まった岩場。濡れた靴と慣れない足場で怪我をする者もいた。
「ごめんね。これ、最後の絆創膏なんだ。靴ずれに使って」
YUMAが差出した絆創膏を、皮のめくれた踵にOPAPIは貼り付けた。
どこもかしこもむせかえるような緑。
頭上から日は降り注ぐものの、足元は苔むした岩とシダに覆われ、いま何時でどこにいるのか、見当もつかない。
皆がすがるような目で一斉に小笠原(スパロウ)を見た。
小笠原の両隣には、さっちん、ハムスターがいる。ここだけは三人で組んでいた。
「……分かった。ここは拓けてるから、ちょっと休憩しよう」
一度、みなその場に腰を降ろした。
「もー。お気に入りのスカートがボロボロ!」
ゴスロリのレースが引き裂かれたチャーミーが涙目になりながら言えば、
「なんでそんなん履いてきたん?」
と、Tシャツとジーンズのタコ星人が呆れたように言う。
「ファッションのこだわりはアイデンティティなんだよ!」
スタッズ付きの皮ベストが光るQUEENが同調する。
その間、さっちんがリュックから取り出した六分儀を小笠原が構え、太陽に照準を合わせる。ハムスターが持つノートに、小笠原は右手で数式を書き込んだ。
そして、一つため息をついてから告げた。
「正確な時間だ。午後四時半。日没は六時半ごろだ」
チョコレートは大きく息を吐いた。
「……ここは樹海だから、日が入らなくなるのはもっと早い。あと一時間ほどで暗くなるだろう」
その言葉に、皆の顔に焦りの色が浮かんだ。
――暗くなる。
その前になんとか手錠の鍵を見つけなければならない。
******
午後一時半――。
小笠原が時間を割り出した直後に、ゲームマスターが彼らに課した最後のゲームは絶望的なものだった。
樹海に入る前に、ゲームマスターは小さく銀色に光る鍵を見せた。
「さあ、こんどはみんなで、宝探しをします。
これは、みんなの手錠の鍵。これを探します。
樹海の中にすでに、ほら、こんな風に宝箱に入れて何個か隠している」
ゲームマスターは小さなおもちゃの宝箱を見せる。プラスチック製の安物だ。
「どれも同じ鍵だから、一つでも見つかれば、超ラッキー。みんな無事に家に帰れる。
もしも見つからなかったら……。その時は、さあ、どうなるだろうね。
君たちの幸運と健闘を祈るよ」
そう言ってゲームの達人は、マントを翻して樹海の奥へ消え、彼らはそれを追うようにこの苔むした天然の迷路に入り込んだ。
******
それが三時間前。
「こうしちゃいられないな。動かなきゃ」
キュービーが重い腰を上げると、いぬだいすきも腰をあげた。
「辺りはどんどん暗くなる! とにかく皆が声の届くところで、離れないことよ!」
未知も声を上げると、QUEENと共に立ち上がった。
「はい。提案」
小笠原が、両方にかかる手錠の右手をちょっとだけ上げる。
「俺たち三人は、ここで脱落(リタイア)する」
隣にいるハムスターとさっちんも、口をしっかり結んでうなずいた。
「考えても見ろ! 二人に挟まれてこの足場だ。木と木の間隔も狭いし、溶岩の穴だらけで、これ以上進めない」
「でも……」
未知は不安げに瞳を揺らした。
キュービーは、ぐっとこらえるように口元を結んでから言った。
「分かった……。必ず、『助け』を呼ぶから、それまで待ってろよ!」
小笠原は、にい、と口の端を上げて笑った。
「そうそう――そのとおり。さすが腹筋。
――俺たちが探すのは、『鍵』じゃない。『助け』だ」
「え?」
未知が聞き返した。
「この樹海。じつは周遊のための国道が通ってる。
さっきからずっと先導していたはずのゲームマスターの気配はない。俺たちは、ずっと、何の思考もなく、鍵だけを探し続けている。
湖上クイズと同じ……。これは、『罠』だ。俺たちが、この樹海で何時間も彷徨(さまよ)うように」
「……どうして?」
未知の言葉に、小笠原は首を振る。
「それは、わからない。でも、一番確実なのは、このゲームそのものを『終わらせる』ことだ。そうだろ?」
「そうだ」
「そうだ」
皆が立ち上がった。
「上に登って行くんだ。そうすれば国道に出る。みんな、気を付けて」
小笠原のその言葉を背に、キュービーは「よし、行くぞ」と皆を先導する。
そして、皆の姿が緑の中に見えなくなってから、小笠原はさっちんとハムスターに言った。
「じゃあ、こっちもはじめよう」



