探偵研究部。――カケラノセカイ―― ③ サマーゲームパーティー

 小笠原は、【船一】の方をジロリと睨みつけた。

「おい! そこの野郎二人!
 さっきから聞いてりゃ……! いいか、その子は潔白だ! なにせ出自がはっきりしてる。
 俺の隣の中学の子で、わざわざ部活の仲間が俺に挨拶に来たくらいだ!
 お前ら、一年生に解かせてばかりじゃなく、ちゃんとフォローしろよな!」

 その小笠原の声に、たこ星人もジェダイも目を丸くする。

「えっ……!」
「一年生……!!」

 二人の驚愕の声に、未知は照れくさそうに肩をすくめた。

【船七:ベロンチョ/おぶちゃん/ラッキー】

 一方、【船七】は靴や手持ちのビニールバッグを使い、必死に水を掻き出していた。ようやくふくらはぎのあたりまで水位が下がってくる。

「はじめから、こうしてれば良かった。なんでそれが『できない』って思い込んでたんだろ」

 ベロンチョは恥ずかしそうに言いながら、手を動かす。四リットル入る大きめのビニール袋を使えば、あっという間に水は外へ掻き出されていった。

「うん……。多分、心理的なバイアスがかかってたのよ」

  おぶちゃんが、濡れた前髪を払いながら分析する。

「ゲームマスターと解答者。その役割が絶対だと感じていたから、ルールに逆らうとか、物理的に抵抗するなんてできないって、錯覚させられていたのね」
「そう……なにも、馬鹿正直に、こんなゲームに付き合ってやる必要はない」

  ラッキーの言葉に、全員が力強く頷いた。

 キュービーが盤上の作戦を立て始める。
「次の問題で正解したら、船はもっとクルーザーに近づける。
 そしたら六人が一気に乗り込んで、操舵室を制圧する!」
 幸い、【船一】と【船五】が、次の問題でクルーザーに到達できる『リーチ』をかけられる位置にいる。

 再び、ゲームマスターの声がタブレットから響く。
『第四問。
 ある部屋に、四人の人物がいる。
 一人は正直者。
 二人は嘘つき。
 一人は気まぐれ者。
 あなたは、三回の質問で「気まぐれ者」が誰か特定しなければならない。
 ただし、彼らが話す言語は「ホホ」「ナナ」の二種類のみ。
「ホホ」は「はい」、「ナナ」は「いいえ」のどちらがどちらかは分からない。
 さて、どのように質問する?
 制限時間は、十分だ!』

 その問題に一同ざわめいた。
「記述式……!」
「しかも三つの質問ともだ!」
「こちらが結託したのを見越して、無理ゲー仕掛けてきたって感じだな!」

【船三:キュービー/豆電球/いぬだいすき】

「ホホとナナ、か」
「しかも気まぐれ者がいるなんて、厄介だなあ。」
「でも、この問題は、第三問の応用だ。ホホとナナ……どちらが『はい』で『いいえ』か分からないなら、その前提を崩せばいいんだ!」
 キュービーは、冷静にそう言うと、三つの質問をタブレットに打ち込んでいく。 

「第一の質問:「ホホは『はい』を意味しますか?」
 第二の質問:「あなたは正直者ですか?」
 第三の質問:「あなたは気まぐれ者ですか?」
そして、最後の質問にこう付け加える。
「正直者はホホと答える。嘘つきはナナと答える」と。
 これでどうだ?」

【船一:ナイチンゲール(未知)/ジェダイ/たこ星人】
 
 たこ星人とジェダイが、未知に頭を下げた。
「さっきは、スパイだなんて疑ってごめん……。今度の問題は、論理の問題だ。多分、君の一番得意分野だろう。 
 もう一度、協力してくれるか?」
 その言葉に、未知はうれしくて
「うん!」とうなずいた。

 未知は、タブレットの前で深く息を吸い込む。
 不思議と青みかかった瞳に光が集まるように彼女の思考が集中し、論理の城に入り込んだ――

 その様子を見た小笠原が、いまにも解答を送信しそうなキュービーに向かって、待ったをかける。
「まて、キュービー! 打ち込むな!」
「何!?」
「この第四問は、全船が『同じ解答をする』ことが、ゲームマスターに対抗する唯一の方法だ! 今、ナイチンゲールが解いている!
 彼女の解答を待て!」
 
 ******

 まず、「ホホ」と「ナナ」の意味が不明だ。
 さらに相手が「正直者」か「嘘つき」か分からない。
 この二重の壁を越えるためには、「あなたは嘘つきか?」のような単一の質問では意味をなさない。

 では、どうするか?
 ――質問の質を変えるんだ。

 四人をそれぞれ A、B、C、D と呼ぼう。

 気まぐれ者以外から、確実に「YES(真)」か「NO(偽)」を引き出すためには、こんな質問になる。

「もし私があなたに『〇〇ですか?』と尋ねたら、あなたは『ホホ』と答えますか?」

この一つの質問に二重の条件を当て込んだ質問文なら、

「ホホ」「ナナ」がどっちであっても、
 相手が正直者か嘘つきであっても、

 〇〇の事実が「真」であれば必ず『ホホ』、
「偽」であれば必ず『ナナ』という返答が返ってくる。

 そして、気まぐれ者はランダムな返答をする。

 これを利用して、三つの質問を作る!

【一回目の質問】
 Aに対して:
「もし私があなたに『Bは気まぐれ者ですか?』と尋ねたら、あなたは『ホホ』と答えますか?」

 Aはどう答えるだろう?

 パターン①:Aの返答が「ホホ」だった場合。
  Aが気まぐれ者で適当に答えたか、Aが正常(正直・嘘つき)で事実通り「Bが気まぐれ者」であるかのどちらかだろう。つまり、気まぐれ者は「AかB」のどちらかに絞られ、CとDは絶対に気まぐれ者ではないことが確定する!

 ならば、この場合、【二回目の質問】は、
 確実に正常である C に対して尋ねる。
「もし私があなたに『Aは気まぐれ者ですか?』と尋ねたら、あなたは『ホホ』と答えますか?」
   Cが「ホホ」と答えた場合 、【A】が気まぐれ者となる。
   Cが「ナナ」と答えた場合 、【B】が気まぐれ者となる。
 このパターンの場合、二回の質問で特定が完了する!

 では、次のパターンを考えよう。

 パターン二:【一回目の回答で】Aの返答が「ナナ」だった場合だ。
 Aが気まぐれ者で適当に答えたか、Aが正常で事実通り「Bは気まぐれ者ではない」かのどちらかだ。
 Aが気まぐれ者ならBは正常だ。
 Aが正常でもBは正常だ。
 つまり、Bは絶対に気まぐれ者ではないことが確定する。

 すると【二回目の質問】は
 確実に正常である B に対して尋ねよう。
「もし私があなたに『Aは気まぐれ者ですか?』と尋ねたら、あなたは『ホホ』と答えますか?」
 Bが「ホホ」と答えた場合 は、Aが気まぐれ者だ。(特定完了)
 Bが「ナナ」と答えた場合 は、 Aは違うので、残る候補は「CかD」に絞られる。ここでも二回の質問で、特定完了だ。

 もしも、【二回目の質問】で「ナナ」と答えられた場合は、【三回目の質問となる】。

【三回目の質問】
 引き続き、確実に正常である B に対してたずねる。
「もし私があなたに『Cは気まぐれ者ですか?』と尋ねたら、あなたは『ホホ』と答えますか?」
  Bが「ホホ」と答えた場合 は、【C】が気まぐれ者。
  Bが「ナナ」と答えた場合 は、 消去法により、【D】が気まぐれ者だ。

 ******
 未知は、ふうっと息をついてから、たこ星人とジェダイを見た。
「解けたよ……」

 タブレットの解答をみながら、ジェダイが呟く。
「『絶対に気まぐれ者ではない人物(信頼できる証人)』を一回目の質問であぶり出し、その人物に残りの質問をぶつけることで、三回の制限内に必ず『気まぐれ者』を特定することがでるってことか……。おみごと。ナイチンゲール」
【船一】で拍手が起こった。
「おい!こいつを共有すんでーー!」
 たこ星人が何かのプリントの裏にマジックで大きく書いた。
「読めるかーー?」
「おおーー!」後続の船たちが答えた。
「じゃあ、みんなに情報リレーしてやーー!」