探偵研究部。――カケラノセカイ―― ③ サマーゲームパーティー

『それでは第三問!』

 船の上のパニックなど知らぬ風に、ボートに取付けられたタブレットは、次の問題を映し出す。

『一人は真実を語り、二人は嘘をつく。嘘つきは常に三人の中に隠れている。
 では、嘘つきを見つけるための、最初の質問は何?
 答えをひとつ選び、ボタンを押せ。

A:私たちは今、ボートに乗っていますか?
B:あなたは正直者ですか?
C:隣の人は嘘つきですか?』

 その時だ。
 ノイズのように、一瞬ガサガサと音が入り込み、再びゲームマスターの声が流れた。

『おっと!言い忘れた。

 ――ただし、嘘つきは一度だけ真実を語る。

 では、解答時間は五分だ』


【船七:ベロンチョ/おぶちゃん/ラッキー】

 船七は静まり返っていた。
 既に二問を間違えている。
 膝を濡らす水は、百四十リットル入っている。

 もし、次に間違えて水が入れば二百十リットル。
 自分たちの体重が一人六十キロだとしたら、もう、ボートの耐荷重である四百キロまであとわずかだ。
 ――もって、あと一回の失敗しか許されない。

 三人は問題を見て半泣きになっていた。

「どうしよう……」
「どれが正解なの……?」

 冷たい水が、彼らの思考を奪っていく。
 あちこちの船からも「どれなの?」と悲鳴にも似た声が上がっていた。

【船一:ナイチンゲール(未知)/ジェダイ/たこ星人】

 未知はタブレットをじっと見つめ、静かに思考を巡らせた。

「一つ一つ、考えていこう……」

 たこ星人とジェダイがうなずく。

「まずは、Aだけど。
 正直者、嘘つき①、嘘つき②は、どんな答えを出す?
 ボートに乗っているのは事実だから、正直者なら当然『はい』。
 嘘つきは『いいえ』と言ってしまえば、バレバレな嘘になるから、ここは『はい』って、真実を答えるかも」

「嘘つきは一度だけ真実を語るからな」
ジェダイの言葉に、未知は頷く。

「でも、それだと誰が嘘つきかは、ようわからんな」
 たこ星人が首を捻った。

【船二:チョコレート/ながれぼし/クリステル】

 別の船では、チョコレートたちが声を上げていた。

「『B・あなたは正直者ですか?』だとどうなる?
 正直者は『はい』と答える。
 嘘つきも、自分のことを聞かれたら『はい』って嘘をつく。でも、もしかして真実を語って『いいえ(自分は嘘つきだ)』って言うかもしれない」
「でも、それだと嘘つきって即バレしちゃうでしょ?」
「じゃあ、結局この質問だと全員『はい』と答えちゃうから、正直者か嘘つきは見分けつかないなあ……」

 ながれぼしとクリステルも、うなずいた。

【船六:チャーミー/オアシス/しろたん】

「じゃあ、これは?」
 船六からチャーミーが叫ぶ。

「『C・隣の人は嘘つきですか?』
 正直者が答える場合、この中に正直者は自分しかいないんだから、隣は絶対に嘘つきよね。だから絶対に『はい』って答えるわ。
でも、嘘つきが答える場合は……隣が正直者なら『はい(嘘)』。隣がもう一人の嘘つきなら『いいえ(嘘)』または『はい(真実)』……。
ああもう! 結局どれも見分けがつかないじゃない!!」

 あちこちから上がる混乱の声。

 そんな中、船五から小笠原が、さっちんとハムスターに冷静に説明を始めていた。

【船五:スパロウ(小笠原)/さっちん/ハムスター】

「その考え方じゃダメなんだ!」

「え?」

「問いに対する『答え』を予測するんじゃない。相手の『反応の矛盾』を見るんだ。
いいかい?
 この問題は、嘘つきをあぶり出した時点で勝ちだ。
 三人しかいない中で、本物の正直者は、Cの問いには絶対『はい』としか答えられない。

 ハムスター、君のメモ帳貸して」

 小笠原はサインペンを受け取ると、適当に棒人間を三人描いた。

「Aの質問は『ボートに乗っているか』だ。
 正しい答えは『はい』だけど、バレたくない嘘つきたちは、嘘の『いいえ』ではなく、一回だけ真実を語って『はい』と言う!
 全員が『はい』と言う中では見分けはつかない。
 つまり、初手としては無駄撃ちの質問だ」

 次に『B』と小笠原はメモに書く。

「Bの質問は『あなたは正直者ですか?』。
 これを選ぶなら最悪の悪手だ。
 なぜなら、正直者は『はい』と言うし、嘘つきは喜んで『はい』と嘘をつくからね」

 そして、次のページに棒人間を描いて、三人の間に双方向の矢印を書き出した。

「いいかい?
 Cの『隣の人は嘘つきですか?』という質問。
 正直者は、隣が嘘つきだから絶対に『はい』と答える。

 ……ということはだ。
 この質問に対して『いいえ』と答えた奴がいたら、そいつは絶対に『嘘つき』だってことだ。本物は『いいえ』とは言わないからね」

 さっちんがハッとして息を呑む。

「じゃあ、もし嘘つきが、正直者のフリをして『はい』って答えたら……?」

「そこが、この質問の最強の理由だ」

 小笠原はペン先で、棒人間をトンッと叩いた。

「嘘つきの隣には、もう一人の嘘つきがいる。
 そいつを指して『はい(隣は嘘つきだ)』と答えた場合……そいつは『真実』を言ってしまったことになるんだ!

 つまり、Cを選べば『いいえ』と答えた奴を即座に炙り出せるし、無理に『はい』と答えた嘘つきからは、一回しか使えない【真実のカード】を強制的に奪い取ることができる。

 だから、初手で最も強い根拠になる質問は……『C』だ!

 まあ、次に、『1足す1は2か?』とかいう質問をだせば、すぐさま嘘つきは自滅するってわけだ」
 と、口先で小笠原は笑った。


 今回の正解は、【船一】【船三】【船四】【船五】。ゆっくりとクルーザーに向かって進んでいく。

 すると後方からベロンチョたち【船七】のメンバーが叫んだ。
「もう、もうだめーー!」
「たすけて!!」
「お母さーん!」

「お前たち! 暴れるな! 落ち着け!
 まだボートは保ってるぞ!!」
 キュービーが後方に向かって叫ぶ。

 ベロンチョの悲痛な叫びが湖面にこだまする。
「次の問題間違えたら、もう転覆する! だれか、このゲーム止めさせて!」

 ベロンチョのその声に、未知は泣き出しそうになる。
「ダメ……。ダメだよ! このまんま、それぞれ船毎に問題を解いてたら、だれか本当に犠牲になる!
 どうしたら……。どうしたら、いい?」

 しかし、無情にもゲームマスターがまたタブレット画面に現れた。