探偵研究部。――カケラノセカイ―― ③ サマーゲームパーティー

 七艘のボートの上で、子供たちは皆タブレットのゲームマスターを見ていた。

 そんな中、口火を切ったのはキュービーだ。彼は、タブレットではなく、先導するクルーザーの操舵室へ向かって声を張り上げた。

「デスゲームって、脱落って、どういうことですか!?」

 その声が湖上に響くが早いか、キュービーの乗る船の船底のゴムパッキンのような小さな栓が開き、すぐに水が自重でドドドと入ってくる。

「うわっ!」
「きゃあ!」
「なに!?」

 急に足場のバランスが変わり、キュービーの船上の他の二人もボートの縁に捕まる。
 さすがのキュービーも、さあっと顔色を変えた。

 スピーカー越しにゲームマスターの声が無機質に響く。

『この栓はリモコン操作だよ。
 大丈夫。全問クリアならば何の問題もない。
 頭のいい君たちはこれで分かったね。あまり退屈な質問をしないでくれたまえよ』

 そしてまた、何事もなかったように蓋が閉まる。キュービーの船はくるぶしが隠れるほどの水が入り込んでいた。

 船は三人ずつ乗って七艘ある。
 皆、ライフジャケットは着ているものの、不安しかなかった。

 船一:ナイチンゲール(未知)/ジェダイ/たこ星人
 船二:チョコレート/ながれぼし/クリステル
 船三:キュービー/豆電球/いぬだいすき
 船四:YUMA/Queen/OPAPI
 船五:スパロウ(小笠原)/さっちん/ハムスター
 船六:チャーミー/オアシス/しろたん
 船七:ベロンチョ/おぶちゃん/ラッキー

 スピーカーからゲームマスターの声が響く。

『さあ、お待たせ。
 手始めに第一問だ。まずは画面を見てくれ』

 タブレットには黒字のかっちりとした明朝体で、問題が表示された。

『第一問:【地球とロープ】

 地球の赤道にぴったりと密着するようにロープを一周巻きました(地球の周囲は約四万kmです)。ここで、ロープの長さをたった『一メートル』だけ長くして、地球の全周から均等にロープを浮かせました。このロープと地面の隙間を通り抜けられるのは、次のうちどれでしょう?

 A:微生物だけ
 B:アリ
 C:小鳥
 D:通り抜けられない

 制限時間は三分だよ。船の仲間と協力して答えを導き出してくれ』

 船毎に悲痛な声があがる。

「四万キロ長さに、たった一メートルつけ足したところで、どうなるもんでもないだろ? アリだって難しい。ロープの隙間を通れるのなんて、微生物くらいだ。答えはBかDだ!」

 船三のキュービーは、頭を抱えながら叫ぶ。

「もしかしたら、微生物すらも難しい……! そしたら、D、じゃない?」

 船六のチャーミーが、他二人の同意を確認しながらタブレットのタッチペンを取り上げる。

「そう……。直感なら、そう思うよね」

 船一の未知(ナイチンゲール)は、他二人を見ながら、タッチペンで数式を書き出す。

「これは、直感で答える問題ではない。あくまでこれは、『数式』で解く」

 船五の小笠原(スパロウ)の書き出した数式は――

「数式で解いてみよう。
 ロープの長さを仮にLとして、こんな数式が出来上がる。

 L = 2πr (2 × 円周率 × 半径)

 僕たちが知りたいのは、もともとの半径と、一メートル長さが伸びた隙間を足した半径。仮に (R+X) としよう。
つまり、

 L + 1 = 2π(R+X) だ。

 この連立方程式を解けば、

 2πX = 1

 円周率をここで、3.14……の数字にもどせば、

 X = 0.159メートル

 つまり、16センチ弱。
 小鳥なら、十分通り抜けられる……! つまり、答えは……」


「答えは、Cになる! どう? これでいい?」

 未知(ナイチンゲール)は、同船の二人に問いかけた。

「うん……ちょっと不思議だけど、筋が通ってるような気がするよ」
「せやな。他に根拠がある答えが出えへんなら、俺もこれで」

 そして、タブレットに『C』と回答した。

『それじゃ、時間だ。
 正解は……
『C!』』

未知(ナイチンゲール)の乗る【船一】で歓声があがる。
小笠原(スパロウ)の【船五】からもだ。
【船二】と、直前で『いぬだいすき』に説得されて答えを変えたキュービーの【船三】も正解だった。

『正解のみんな、お見事!』

 リモコン操作でクルーザーに近づく正解の船の後ろで、

「いやあああ!!」
「うわあ!」

 と悲痛な悲鳴が聞こえ、皆振り返った。
 不正解の船たちには容赦なく、船底から水が入り込んでくる。皆真っ青でパニックになっている。

「落ち着け! 船を揺らすな!」

 キュービーが声を上げるが、声は届かない。
 そして、またスピーカーからゲームマスターの声が響いた。

『慌てなくても大丈夫だよ。
その船は、『まだ』沈まない。
さあ、落ち着いて考えてみよう。そう、論理的思考でね。

 この船は、四百キロの最大積載量なんだ。そして、一回の不正解で入り込む水の量は七十リットル。問題は五問。
 さあ、君たちの体重は何キロかな?
 どこまで、この船は持ちこたえられるだろうね?

 それでは二問目が始まるよ。
 この図をよーーく、見てくれ』

子供たちは、じっとその図に目を見張る。
タブレット画面の下には、キューブの初期状態の色が記されていた。

【上面=白、底面=黄、前面=赤、背面=オレンジ、右面=青、左面=緑】

 そして、三十秒経過とともに、画面が真っ暗になった。

『これから四手動かした後に出来上がる『正面(前面)の九つのマスの色』をすべて答えてもらおう。

 第一手、右側の面を、手前(下)に向かって九十度回転。
 第二手、左側の面を、奥(上)に向かって九十度回転。
 第三手、上面を、上から見下ろして時計回りに九十度回転。
 第四手、正面の面を、時計回りに九十度回転。

 さあ、現在の『正面の九マス』の色はどうなっているかな?』

 手荷物から、メモを取り出したもの。
 手のひらを見立てるもの。各船で協力し合う。
 未知(ナイチンゲール)未知は、他二人に手を出してもらい、架空のキューブを空間に作り出す。
 小笠原(スパロウ)は、脳内で空間を作り出す。さっちんとハムスターはあっけに取られていた。

「これは、三×三の九マスのビンゴカードを思い浮かべればいい。そこが次々と違う色に塗り替えられていくんだ」

 そう言いながら、小笠原(スパロウ)が空に九マスを描き出す。

「そ……それなら、分かる。色のイメージなら、つくよ。美術部だし!」

 さっちんは、声を上げた。

「……富嶽三十六景、答えたの君か?」

小笠原(スパロウ)が驚いたように見ると、さっちんは、うん、と恥ずかしそうにうなずいた。

「いいかい? 第一手、右面を手前(下)に九十度回す。
 右の列が下に引っ張られる。代わりに『上面』の白が降りてくるから、正面の【右の縦一列】がすべて『白』になる」

 ハムスターがメモを取り出しかき込む。

(現在の正面:左から 赤・赤・白)

「次だ。第二手、左面を奥(上)に九十度。
左の列が上に引っ張られる。代わりに『底面』の黄が上がってくるから、正面の【左の縦一列】が『黄』になる。真ん中の縦列は一切触っていないから『赤』のままだ」

(現在の正面:左から 黄・赤・白)

「次。第三手、上面を時計回りに九十度。
上面が回ると、正面の【一番上の横1列】が左へ押し出され、代わりに『右面』の上段がスライドしてくる。……右面の色は? 第一手で回転したが、元々すべて青だから、回転しても青のままだ。つまり、一番上の横一列がすべて『青』で上書きされる!」

(現在の正面:
 青・青・青
 黄・赤・白
 黄・赤・白 )

「最後、第四手、正面を時計回りに九十度。
つまり、この九マス全体が、右にゴロンと九十度傾く。
一番上にあった『青・青・青』は、右の縦列に落ちる。
左にあった『青・黄・黄』は、持ち上がって一番上の横列になる。
すべてが右に九十度スライドして……完成だ!」

「うん、私もできた……!」とさっちん。

「上段は、黄、黄、青!
 中段は、赤、赤、青!
 下段は、白、白、青ね!」

 ハムスターが紙を九十度に回転させて、嬉しそうに声を上げた。





【作者より】
※本エピソードにおけるクイズ問題の構築および論理の精査にあたり、AIを補助として利用しております。