あやめも知らぬ恋


そこに真っ向から否定しにかかったのは紫暮だった。

一気に核心部へ斬りこむ紫暮に、媛巫女は物怖じして渋そうに頷いた。

紫紺色の切りそろえた長い髪が顔にかかり、顔に指をすべらせて髪を耳に流す。

それを蛍は涙を浮かべたまま、鼻をグズグズ鳴らして見つめていた。

「お察しの通りです。本当はあなた様にお願いがあってまいりました。……いえ、正しくは竜人様のお力をお借りしたい」

かなり切羽詰まっているようで、媛巫女は汗をにじませて苦しそうに現状を語りだす。

「現在、鬼喰いは他の巫女たちに力をお借りしておさえています。ですがこのままでは近いうちに力尽きてしまうでしょう」

「力尽きるって……」

媛巫女として成さねばならないことも出来ず、情けなさに歯を食いしばる。

「申し訳ございません。わたしの力が及ばず、このように竜人に頼らざるを得ない事態となっております」

このまま己の命とともに鬼喰いを滅する方法も考えたそうだが、いざ封印されている場所に近づくと身がすくんで、境目となる一歩が踏み出せずにかなわなかったそうだ。

苦悩に満ち、無力さに自身を傷つける姿は放っておけなくなる。

そこまで立派な地位にあり、誰よりも強い巫女のはずだから責める理由は何一つないだろう。


なんとなく楓はこの責任に押しつぶされそうな人を助けたかったのだろうと、双子がゆえの共鳴で救いたいと琴線が震えだした。


「それで、竜人なら倒せると?」

話を聞き終えて、紫暮が第一声に問う。

それに媛巫女は蛍を抱きなおし、同じ色の髪を指で梳きながら身体を揺らしてあやしていた。

慣れた動きすぎて本人は無自覚のようだが……。


「並の竜人では厳しく。紫暮様ほどのお方ならあるいはと」

媛巫女は紫暮が竜人のどの位置にいるのか把握しているようだ。

一族の争いで何度か龍人の国に戻っている。

つまりその一族で中心に近いがゆえに逃れられないと考えるのが妥当だ。

知らないままではいたくない。

これまで紫暮の求愛から逃げてきた分、目を反らさないよう気張って背筋を伸ばした。

それに紫暮は目を見張り、困ったように肩を落とすと私の前髪ごとくしゃりと撫でてきた。