やはり媛巫女の言動はおかしい。
蛍が南条家にきた経緯も謎めいており、目の前にいる媛巫女の態度と関係があるのだろう。
元当主の白彦は口を噤み、引き取るだけ引き取って私に面倒をみるよう命じた。
蛍は推定三歳後半。
少なくともそこまで成長するまで媛巫女のもとにいた。
蛍のことを知らぬはずがないのに、これでは上辺だけそのままに蛍のことがごっそり抜けたようにしか思えない。
確かめる必要があると紫暮と頷きあうと、媛巫女と向き合って詰めていくことを決めた。
「蛍ちゃんのこと、覚えていないのですか?」
「子どもを産んだ覚えはありません。ですが……」
媛巫女はひどく怯えた状態で震えあがり、蛍にすがるように背中をポンポンと撫でだす。
やはり手つきは慣れている。
今までずっとそうしてきたように自然と馴染んだ動きだった。
「ここ五年ほどの記憶がないのです。宮の者に聞くと、鬼喰いを押さえ込む際の反動で記憶が飛んでしまったとか」
それから媛巫女はここ数年で己に発生した異常について語りだす。
(記憶喪失ということ? 鬼喰いを抑えるためって、たしか銀座で聞いた話だ)
この言い分だと、鬼喰いを押さえ込むために力を使いすぎた代償で徐々に記憶が削れていったという認識が適切だろう。
媛巫女の年齢は二十二歳だそうだ。
十七歳あたりから記憶が欠如しているわけだが、その間に楓と出会って、蛍ちゃんを産んだという計算にある。
記憶がない影響か、媛巫女として使命だけに生きている。
鬼喰いが自身に与えた恨みがましい思いも相まってか、媛巫女は”鬼”という単語に敏感で”鬼子”である私を脅威とみなしているようだった。
悪いことなんてするつもりはない――と断言したかったが、鬼の誘惑を無自覚にしている以上、良い行いだけする身でもなかった。
「媛巫女。ここに来たのは花純を狙ってのことではないだろう?」



