あやめも知らぬ恋


「ええっと、おっしゃっていることがよくわかりませんが……。この子が何か……? わたしは竜人がいたと報が入り来ただけですので……」

「はっ……?」

なんだこの強烈な違和感は?

蛍と聞いてこうも無反応なのは気味が悪い。

まるで自分を母親と認識していないような……。

よく見れば振袖を着ている時点で、媛巫女には子を産んだという認識そのものがないように見受けられた。

「それよりも……」


女性は蛍の肩を押して引き離すと、懐から赤い糸を取り出して素早く五芒星の形を編む。


「あなたが鬼子ですね? さしずめそこの竜人様を惑わしたと。あなたにそれほど強い力があるとは思えませんが……」

つま先で地面を蹴り飛ばし、媛巫女が糸を操って私を捕らえようと襲いかかってくる。

振袖を着ているとは思えぬ器用な動きに圧倒されていると、紫暮が私を抱き寄せ、その勢いのまま蛍を拾い上げて大きく後退した。


「竜人様に悪影響を及ぼすならば鬼子と言えど封印せねばなりません! それがわたし、媛巫女の務め!!」

媛巫女は私が鬼子だから”敵”とみなし、倒そうと気を張っているようだ。

争いを望まない私は指を這わせ、息苦しさに媛巫女の睨みを真正面から受けていた。

もう一度と、媛巫女が一歩を踏み出す。

「やめて! ママッ!!」

紫暮に抱えられたまま蛍が身を乗り出して媛巫女に手を伸ばす。

すると私の手首を飾る翡翠の腕輪から眩い光が広がり、媛巫女の指に静電気を走らせて動きを鈍らせた。

「その腕輪……」

私の手首にはめられた翡翠の腕輪。

蛍から受け取ったものであり、おそらく媛巫女が元の所有者と思われる代物だ。

つまり目の前にいる媛巫女が元の持ち主だと、あえて見せつけるために着物の袖を捲りあげた。

「うああああんっ! ママ、ママァーーーッ!!」

「あ……」


泣きじゃくる蛍に、さすがの私も媛巫女もバツが悪くなり、互いに手を引っこめる。

紫暮がそっと蛍を下ろすと、蛍はヨタヨタしながら再び媛巫女にすがるように抱きついた。

「ママって、わたしのことですか? この子は……うぅ」

(なんで? なんで媛巫女様は蛍ちゃんのこと……)

それからずっと蛍は泣き止まず、媛巫女から離れようとしなかった。

困惑していた媛巫女だったが、蛍の異常に折れてそっと抱き上げると私と紫暮の前まで歩いてくる。

やたらと子供を抱く行為が慣れているように見受けられた。

「鬼子がわたしの私物を持っている。意味がわかりませんわ」

「……これは蛍ちゃんに渡されたものです」

「この子が?」