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日が落ちるまで景色を堪能した後、蛍がウトウトしだしたのでゆっくりと元いた場所に降り立つ。
夜の空気も澄んでおり、涼しさも相まってたまらないと胸いっぱいに酸素を吸い込んだ。
「――もし」
チリン、と鈴の揺れる音がした。
直後に竪琴にでも合いそうな透きとおる声が気配もなく呼びかけてきた。
日が落ちたとはいえ、まだ視界は人の顔を見れるくらいの明るさが残っている。
ましてや鬼子のため一般的な人より視力の良い私が気づけないとなると、よっぽど足取りが落ちついていて音のない人だ。
清廉な空気に当てられて振り返ると、藤色の振袖を纏う、角のない容貌の女性がいた。
一見しただけでわかる高貴な雰囲気に私は気後れして後ずさってしまう。
たとえ私が気づかなくても紫暮が何もなく翼を出したまま降り立つはずがないのに……。
「ママ……」
蛍が腕の中で身を捩り、突如現れた女性を「ママ」と呼んだ。
「ママッ……! ママッ!!」
私の胸を押して蛍は飛び降りると、女性の足元に抱きついて大声をあげて泣き出してしまう。
「えっ、えっと……」
対して女性はオロオロしだし、蛍を見下ろしたまま身動きを取れずに指を曲げたり伸ばしたりしていた。
「ママッ……ママッ! 蛍に会いに来たの!?」
「えっ……えっ?」
「ママ、ママ!! 蛍だよ! ねぇ、ママッーー!」
「――ごめんなさい。この子はいったい……」
頭を抱え、女性は足元をふらつかせてしまう。
支えきれなくなった身体が後退すると、蛍の身体もぐらついて尻もちをついてしまった。
それでも蛍はすぐに立ち上がり、取り乱して何度も「ママ」と女性に飛びついていた。
(この方が蛍ちゃんの……? ということは媛巫女様?)
「ほっ、蛍ちゃんを迎えにいらしたのですか!?」
ここは媛巫女の住まう御殿のすぐ側だ。
蛍の情報を聞きつけ駆けつけてきたのかもしれない。
だがその割に女性の目は蛍を初めて見るような戸惑いに満ちていた。



