あやめも知らぬ恋


「かすみっ……! 息できないよ」

「うん。私も蛍ちゃんが好きすぎて息が出来ないよ。……楓にも、会いたいよ」

蛍が無事に母親と再会して、楓にも会って家族で暮らすことになったとしても。
そうならない可能性は考えない。

こんなにも可愛らしい蛍を楓が見捨てるはずがないから。

どんな結果になったとしても私は蛍の傍にいたいし、ずっとずっと母親のような姉のような面でいさせてほしかった。

「花純。蛍をしっかり抱きしめておいてくれ」

「えっ? きゃっ!?」

グッと腰に腕を回されて足が地面から離れてしまう。

とっさに蛍を抱えて身を丸くしていると、上から風が降ってきて瞼裏に橙色が透けて見えた。

「花純、目を開いてごらん」

穏やかな声に導かれて目を開く。

「わぁ!」

統一された銀色の重厚な輝きに、情熱的な茜色がかかって胸焼けしそうな恋もゆる景色。

奥の山々は濃い緑とのコントラストが見事で、空は群青色と橙色のグラデーションが趣ある京の街並みを艶っぽく魅せてきた。

「シグゥすごい! もっと高く高く〜!」

「きゃっ! 蛍ちゃん危ないよ! ……もぅ」

母親を思い落ち込んでいた蛍がパッと明るく空に花を咲かせた。

何も言わない傷だらけの女の子かと思えばこうして年相応な無邪気さを見せる。

花火のように飽きのこない子で、その眩しさを絶やさないよう大切に大切に守っていこうと改めて誓った。


「蛍も大事な子だ。何があっても俺が蛍ごと花純を守るさ」

こめかみにキスが落とされ、とっさに蛍の後頭部に顔を埋める。

やけくそだと勢いにのって蛍の頭に唇を押し付けてみた。

「かすみ、いたい。ちょっと重い」

「知らないっ! 重いくらいがちょうどいいんだから!」

これはまだ星の瞬く青さに染まりきらない熱のせい。

恋と呼ぶには盲目になりすぎて、淡い蛍の光も点って酔いが覚めないだけの話なのだから。