泣きそうな目をしては空が紫に暮れてしまう。
私は胸を起伏させながら両手を紫暮の頬に伸ばして、目尻を指で拭った。
「紫暮様?」
「心は、お前にある」
「えっ?」
「竜人である前に俺は男のようだ。……花純を愛してる。俺が否定したくない。――お前にも否定されてたまるか」
上に覆いかぶさっていた熱が離れていく。
紫暮は乱れた着物を手直すと、私の浴衣を前であわせて軽く帯紐を結んだ。
そして隣に仰向けに寝転んで、私を抱き寄せて腕枕をした。
「この先は全部終わってからだ。無責任にはしない。……良いな?」
――やっぱり、ズルい。
「はい」
擦り寄りたくなるほど、甘ったるい人。
誰よりもお姫様のように扱ってくれるロマンティックな紳士様。
鬼ではなく、私として誘惑することが許されるならば、いつだってこの人を堕としたい。
「あやめも知らぬ恋、ですね」
「なんだ、それは」
「善悪の区別もつかないくらい盲目的な恋……という意味だったかと。私は今、紫暮様を絡めとって離そうとしない悪役ですから」
「ははっ。それはなんとも痛快なことだ。……俺がここまで夢中になってしまったとは、綾芽にとっても想像しなかっただろうな」
番でなくても番になりたい。
この心は誰にも奪えない。
誰かの特別になりたいという想いは決して悪いことではないんだと、いつか証明出来るように。
理屈ではどうしようもない愛だってあるんだと。
(そうでしょう? お母様)
「今日は疲れましたね。ゆっくり休みましょうね、紫暮様……」
「……なかなか難しいが善処する」
「お願いします」
クスクスと笑って目を閉じる。
夢中な恋は罪か、母の願いが生んだ縁か、鬼ゆえか。
答えを知らぬ恋の前で、私たちは正しくなれない。
それをあやめも知らぬ恋と呼ぶ――。



