あやめも知らぬ恋


「んっ……紫暮さ……」

「縁を結ぶ神とやらがいるのならば、龍をバカにしているにも程がある」

「いっ……!」

ズブリと容赦なく牙が肌に釘をさす。

私の柔肌では簡単に牙が刺さってしまい、血が滲みだして水を上書きにした。

ジンジンとした痛みにめまいがすると、血を舐めとるように紫暮が舌を上に這わせていく。

「紫暮様っ……! まって……! んんっ……!」

「竜人にとって番は命と同義。いわば存在意義。魂なんだ」

(魂……)

――あぁ、そうか。今、紫暮は葛藤しているんだ。

本物の番が現れ、竜人として尾が反応してしまった。

紫暮自身が梨亜奈を番と認めている。
いわば竜人の本能がざわついている状態だ。

なのに今まで私を番と思い込んでいた。

ニセモノと判明した今も、紫暮は苦しんでいると知り、喉が焼ける思いだった。

「申し訳ございません。私が紫暮様を困らせている。鬼の誘惑がわかれば、紫暮様を解放すべきなのでしょうが……」

「それが腹立たしいと言うのだ!」

「きゃっ!?」

噛みつかれる。

唇が機能を果たしていない。

無防備に暴かれて、奥へ奥へと紫暮様が私を壊そうとしてくる。

このまま壊れてしまえば、紫暮を苦しませなくて済むかもしれないと過ぎり、涙が静かに頬を伝った。

(いや。だって、私が紫暮様を手放したくないと思ってるのに)

「はっ……ぁ……」

糸が伝う。

紫暮の髪によく似た銀の糸が結びつき、ちぎれそうになっては赤い舌を重ねて口にフタをした。

「――番とはそれほどに大事なんだ。狂いそうなくらい、この身をちぎってでも大切な……」

つぶれてしまいそうなくらい強く抱きしめられ、かかとが浮いてしまう。

いっそこのまま飛び去ってしまいたいと紫暮の背に手を回すと、翼が開いて風を切る。

ゴォッと暴力的な風に当てられたあと、そよ風が私の下に吹く。

気づけば屋敷の中に入っており、畳に寝かされて紫暮が私の上に覆いかぶさっていた。