”略奪者”
私は梨亜奈から番を奪ってしまったも同然。
私もまた、番ではない悲しみに暮れ、同時に自己嫌悪の気持ちにも苛まれていた。
そう思っても、もう口にはしないと虚勢をはるしかない道を選んだ。
少し前の私なら「ごめんなさい」と言っていた。
でも言わない。
自分が言われたら心が打ち砕かれる。
だったら憎まれても、紫暮を奪った存在であろうと誓った。
「”鬼の誘惑”について、ちゃんと調べます」
「花純……?」
きれいごとは無理だ。
だが対等になることは出来る。
それが紫暮の意に即していないとしても、私が紫暮を信じる限り、大丈夫だと確信を抱いた。
「もし、私が紫暮様に”鬼の誘惑”をしていたとしたら解きます。そのとき、紫暮様に選んでいただきますから」
私の発言に紫暮はぎょっとするも、すぐに困ったように微笑んだ。
この虚勢に気づくも、紫暮もまたその時に答えようと想いを信じていたから。
「酷いわ。泥棒に奪われて泣くしか出来ないなんてお断りよ。惨めだわ。番に拒絶されてどうやって一族に顔向けすればいいの……」
梨亜奈は私を差別したわけでなく、事実を主張しているだけ。
久美子と違って私を侮蔑してのことではないので、私なりの誠意を向けることにした。
「でも、旦那様は振り向いてくれない。番は相手を失えばどう生きればいいの? 寂しくて死んでしまいそう。……誘惑だと言うなら早くやめて。返してよ。アタシの旦那様を……」
喉が焼ける。胸が焦げてしまう。
梨亜奈の張り詰めた糸が切れて私の身体中に細くてなかなか消えない傷を残していく。
明確な終わりがないと、私も梨亜奈も”恋”か”愛”かで決着がつかないんだ。
想いが向いてないとわかっていても、好きという愛情に終止符を打てない。
心以上に、本能が叫ぶのだから”番”とは厄介なものだった。
「かすみ。パパもママも、くるしい?」
腕に抱く蛍が私の袖を引っぱり、不安げな目をして訊ねてくる。
それに難しい問題だと困り果て、微笑みながら蛍を抱きしめた。
「蛍ちゃんに会えば苦しくない」
どうして楓は帰ってこない?
母親の媛巫女はどうして蛍を手放した?
父・秋兎を殺した”鬼喰い”とは一体何なのか。
謎は膨らむばかりで、逃げていられないと私は母として女として強くあろうと決めた。



