あやめも知らぬ恋


紫暮は舌打ちをすると、私を後ろに守って空に向かって手を伸ばす。

手のひらに水の球が凝縮され、雨の流れが納屋に集中する。

水の球が納屋の上で破裂すると、焼失するところだった納屋は重みでつぶれて鎮火した。

何度見ても竜人の能力には身がすくんでしまう。

紫暮は竜人でありながら、一族をまとめる長になるよう望まれるくらい強い存在だと痛感した。

暗雲は雨を止めるとゆっくりとスライドしていき、空に虹がかかる。

通り雨として霧に近いこまかな水が頬をかすめていった。

体当たりにぶっかってくる水に逆らい、那波とこの場を離れていた蛍が瞳に涙を溜め込んで駆けてくる。

「かすみ! シグゥ!」

「蛍ちゃんっ……!」

相当気が気でなかったのだろう。
こうも目立つ爆発が起これば蛍のように幼い子は逃げるべきなのに、優先事項を見誤ってしまうことはある。

いや、蛍にとってはここに来ることが最優先だったんだ。

私は縁側からおりて今にも壊れそうな蛍を抱きとめる。

そこに紫暮がそっと手を添え、梨亜奈から守るように瞳孔を鋭くして前を見据えた。

「何よ、アタシが悪いの!?」

「違う。俺が悪い。だから方法は考える!」

「なんでよ! アタシはずっと紫暮様の番になりたかったのに!」

竜人が番を認識するのは十五歳を超えてからとなる。

梨亜奈はまだ十五歳を迎えたばかりの早熟竜人だ。

紫暮からすると、ちょうどすれ違いで対面することのなかった年齢差である。

「幼い頃から貴族の殿方に嫁ぐと育てられた。黄龍族の期待を背負ってたくさんの教養を詰め込んできたわ」


ボロボロと涙を流し、感情が雷となって外に飛び出てしまう姿は痛々しい。

「こんなのってないわ! アタシはただ旦那様を求めただけ! 魂に焦がれ、この世の理で想い慕っている! なのにどうして鬼子なんかに奪われなきゃいけないのよ!!」

だが同じ人を好きになって、想いが報われない痛みはよくわかった。