あやめも知らぬ恋

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紫暮の口から語られた母・綾芽の想い。

そして会ったこともない鬼の父・秋兎のこと。

知らなかった愛情が繋がって、紫暮は私を番として大切に想ってくれていた。

人の想いが繋がった結果だとすれば、祝福しかない感情に、葛藤も全部払って頷いてしまいたかった。

番だと伝えてくれる紫暮に、同じ想いだと抱きつきたい。

だが現実は、私を紫暮の番と認めなかった。

本物の番、梨亜奈が現れたことで紫暮が当然だと思っていた現実が崩れた。

「番と心が通じないこともあるんだな……。いや、わからない。あれは本当に番なのか?」

「紫暮様……。私は……」

「いや。だとしても俺は花純、お前が好きだ」

「んっ……ぅ……」

噛みつかれる。

距離をゼロより近づけようとして、唇の薄皮がめくれてしまうほどに熱くせまられた。

突き飛ばせない。

突き飛ばしたくない温もりに身をゆだね、自分がどうしたいのかをぼんやりと考える。

(お母様の願いがなかったら好きになってくれなかった? そうだったら私は紫暮様を受け止めないの?)

そう考えるのは全部他責だ。

一切、自分がどうしたいかが含まれていないと気づき、憤って紫暮の肩を押して唇を離す。

そして今度は自分から、押し倒す勢いで紫暮の唇にキスをした。

夏の暑さで、汗が混じるしょっぱさの濃い口づけ。
セミの鳴き声がじりじりと脳内を焦がしていく。

唇が離れたとき、私は紫暮に馬乗りになって赤い瞳に水膜を張らせていた。


「まだ約束は果たせていません」

頭皮からにじんだ汗がこめかみを伝って紫暮の頬に落ちる。

きっと父・秋兎のように狭い世界で生きてきて、目の前に現れた人に希望を見た。

鬼子だと忌み嫌われてきたが、誰とどう生きたいかくらいは自由だと紫暮の肩に指をはわせた。

――空色に、天翔ける龍を見た。