「わたしのせいだ。秋兎が死んだのは……」
「――子どもは。それはいつのことだ?」
綾芽の懺悔に、紫暮はすぐには受け入れられなかった。
腕に抱いた赤ん坊の重みを実感し、血の気が引けていくばかり。
「子どもが出来たとわかって、秋兎も喜んでくれた。……抱かせてあげられなかったことが一番の後悔かもな」
秋兎は鬼として蔑まれ、か弱く人にいじめられていた。
親にも幼い時に見捨てられたらしい。
愛情を知らないがゆえに怯えてばかりだったと知り、綾芽はそれ以上の愛情を向けようと決めていた。
それも今では叶わぬこと。
「その分、子どもには愛情を与えたい。だから巫女としての旅は終わりだ」
それは紫暮と綾芽の旅も終わるということ。
ほんの少し席を外している程度に思っていたが、何もかもが変わってしまった。
竜人の体感と地上で流れる時間の感覚は違うのだと身をもって知った。
その後、紫暮は再び竜人の国へ戻った。
王が倒れ、王位継承の問題に巻き込まれて時間は経過し、紫暮はなかなか地上に降りることが出来なかった。
時折、綾芽に会って子どもの様子を遠くから眺める。
そうして時間が過ぎていくものと思い、ようやく一族と離別できて地上に戻った。
――その時すでに綾芽は亡くなり、南条家に残っていたのは泣き虫な秋兎によく似た娘が一人。
年頃の娘。
竜人に年の差はないに等しい。
もし、子どもが成長して立派な女性としてその目に映ったならばーー。
”お前の番に選ばれることはあるか?”
――お前の番にして、守ってくれ。
「守るさ。俺の番だ。――花純」
人間にも面倒なことに、結婚には手順があるらしい。
花純を困らせないためにも、安心して嫁げる環境は作った方がいいだろう。
相談できる相手も必要だろうか?
同性の那波がいれば少しは気楽にできるかもしれない。
住む場所は華美なものより、綾芽が好んだ畳の部屋が多いものにしよう。
だが女性は煌びやかなものを好むかもしれない。
多少は西洋のものとやらを混ぜてみようか。
他の女に目をつけられるのは厄介なので、顔は変えて暮らそうと竜人の国から仕入れた薬で対応した。
すべては花純を万全な状態で迎えるため。
「あぁ、やはり間違いないな」
この娘こそ、自分の番だと認識し、紫暮は綾芽から託された悲願を叶えたのだった。



