あやめも知らぬ恋


さすがにバカげていると絢芽を制そうとしたが、一貫して訂正しようとしない姿に真実だと悟った。

それこそ嘘だろう、とよろめいていると綾芽はニコリと笑って紫暮に手を伸ばす。

「なぁ、紫暮。竜人に年の差はないようなものだろう?」

「はっ? 何を言って……」

「この子が大人になったとき、お前の番に選ばれることはあるか?」

本当にこの女は何を言っているのだろう。

この時、紫暮は綾芽の意図がわからずに笑い流してしまったが、後に悔いることとなる。

綾芽はずっと帰ることのなかった”南条家”に戻り、双子を出産した。

二人とも秋兎によく似た赤い瞳をしており、鬼子だとされ肩身の狭い身として生きることになった。

番を認識するのは竜人だと十五歳が起点となる。

互いに番と認識するとき、子を産んでも大丈夫だと熟した状態で出会うようになっていた。

だから生まれたての赤ん坊を見ても紫暮にはそれが番かわからない。

「赤ん坊とは不思議な生き物だ。男と女の見分けもつかんな」

ほとんど目を開けることのないぼんやりとした顔立ちの赤子を、紫暮は不思議に思って指で突つく。

むにゃむにゃした女の子の方が紫暮の指を取り、ヨダレだらけの口でちゅうちゅうと吸いよってきた。

なんだこの生き物は。
指を食まれるなんて初めての経験だと食い入って眺めていると、綾芽が男の子の赤ん坊・楓に乳を与えながら口を開いた。


「鬼喰いという人工物がある」

何のことかわからない紫暮は、綾芽の代わりに抱いていた”花純”から指を引っこ抜く。

すると花純は秋兎によく似たメソメソ顔で泣きだし、指を恋しがって足をバタバタさせていた。

「意味がわからん。母親の乳房と勘違いでもしているのか?」

「ははっ。すっかり親みたいな顔をしてるな」

「ほざけ。で、鬼喰いの話を何故急に持ち出す?」


必死にあやそうとする紫暮に綾芽はふっと笑うと、必要なことだと言って紫暮に”情報だけ”を与えた。

巫女の統括を行なう媛巫女一族が宮におり、そこには”鬼喰い”と呼ばれる人工の化け物が飼われているそうだ。

今でこそあやかしは減り、鬼喰いも役目を失ったも同然。

宮の奥深いところに封印されていた鬼喰い。
鬼を食らうための存在だ。

それが暴走し、綾芽は封印のために召集され、その際に秋兎が巻き込まれて鬼喰いに食われたと明かした。