「はっ……?」
まったく意味不明な光景に目を丸くしていると、女は紫暮の気配にゆっくりと振り返る。
「やぁ、こんにちは。竜人とは、珍しい生き物に出会えるなんて」
これは縁起のいい出来事だろうか、と女はからかうように口角をあげて笑った。
ひょうひょうとした態度の女に紫暮は眉をひそめ、石を飛び伝って女の前に出る。
「巫女か。何をしている」
「何って、禊さ。水に穢れを洗い流してもらっているんだよ」
聞けば水は穢れを流すものとして尊ばれているらしい。
そこは竜人の国と考えが同じだと眺めていると、女は鼻をスンと鳴らし、直後に大きなくしゃみをした。
「とはいえ、やはり冷たいな。う~、風邪をひく」
寒い寒いと腕を擦り、女は水たまりから出るとその辺に放ってある着物を手にして大胆にも着替えだす。
女の裸を見たところでなんとも思わないが、警戒心はない女だと品のなさに鼻で嗤った。
「わたしは綾芽。竜人様の名前は聞いてもいいかな?」
誰に対してもオープンな振る舞い。
よく言えば気さく、悪ければ慎ましさがない。
だが引っ込み思案な女よりはずっといいと、紫暮は綾芽を友好的に見るようになった。
***
それから暇つぶしと称して綾芽とともに行動をするようになる。
綾芽は南条家という巫女の一族に生まれたらしく、旅をしてあやかし退治を行なっていた。
とはいえ、あやかしが頻繁に出没したのも昔の話らしく、今は残党狩りのようなものだと笑って語った。
「へぇ、竜人には”番”という概念があるのか。おもしろいな」
「面白いか? 俺にはまだ番がいないからいまいち気持ちがわからん。愛しくてたまらない……世界の中心が番になるとか」
「女としてはそれくらい大切にされたら幸せだろうな。……ちなみにわたしはどうだ?」
ふふんと鼻を高くして詰め寄ってくる綾芽に、紫暮は「げっ」と口端を引きつらせて後ずさる。
「ない。お前と番うなんてありえない」
「ははっ! わかる! わたしも紫暮とは嫌だ!」
共に行動をするようになって長い年月を過ごしたわけでもない。
だが紫暮にとって綾芽は気楽な存在で、腐れ縁のようなただただのんびりと続く友情の延長戦でしかなかった。
自分が番う相手はわからないが、めんどくさいのは嫌だとぼんやり考えながら見えない竜人の国を懐かしく思い、空を見上げた。



