あやめも知らぬ恋


せっかくの品ある日本家屋だが、生活臭は感じられない。

丸いガラステーブルに、エメラルドグリーンの椅子。同色の絨毯が敷かれた簡易な応接室だ。

使用感がなく、テーブルには指紋一つついていない。

キレイすぎておっかないと思っていると、紫暮は強引に私と蛍をふかふかのソファーに下ろした。

じっと見つめられると頬が熱くなって意識がそこに集中しだす。

「あ、の……わかってるって……」

「悪かったな。人間は番がわからないのに気ばかり焦った。だが鬼子でも番は番だ。別にかまわない」

穏やかに微笑まれれば不覚にも胸がときめいてしまう。

私は南条家からほとんど外に出たことがないため、外の人と話すのに不慣れだ。

ましてやその相手が求婚者で、さらにさらに竜人とわかれば頭がパンクしてしまうもの。

「竜人の尾だ。番にだけ反応して毛先が染まる」

「あ……」

「竜人は番を認知したらもう離れられない。これは本能なんだ」

「でも……鬼子に反応するなんて」

「疑うな。悪いが俺は引かんぞ」

冷めた声にハッと顔をあげると、紫暮が目の前まで迫っており、薄紅色に染めた尾が私の頬を撫でだす。

怒っているようだが、それ以上に切なさが上回って返事ができない。

「かすみ……」

か細い声に私はハッとして隣に並ぶ蛍を見る。

出会った時と同じ、何もかも諦めて傷つくことを身構えている身の強ばり方だ。

紫暮との現状は今、考えても答えは出ない。

それよりも蛍の安全を確保し、楓と無事に再会させることを第一に考えなくては。