「花純!!」
眠ってしまった蛍を布団に寝かせようと、そそくさ退散しようとして呼び止められる。
心臓がわしづかみにされ、女のズルさを全面に足が縫われたように動かせない。
そのまま蛍ごと後ろから抱きしめられ、胸が締め付けられて、喉の奥から迫り上がる痛みに目頭が熱くなった。
「遅かったじゃないか。心配した」
「す……みません。あの、蛍ちゃんが寝てるので今は……」
「話がある。悪いが那波に任せてもらう」
ちょうど車をしまい、屋敷へ戻ってきた那波を紫暮が呼び止める。
こうなることがわかっていたのか、那波は黙って寄ってくると花純から蛍を引き寄せて、あやしながら部屋へ向かい出す。
「蛍ちゃ……!」
「花純。逃げないでくれ」
グイッと顔の輪郭に手を添えられ、無理やり振り向かされる。
反対の手で腰を抱きしめられており逃げように逃げれない。
「やめてください。り、梨亜奈さんが……」
そうだ。梨亜奈と話していたはずだ。
近くに梨亜奈がいるはずだと、横目に中庭へ目を向けると地獄の業火を瞳に宿してこちらを睨んでいた。
焼き尽くされそうな憎しみを当てられ、肌が痺れだし、罪悪感に火傷していく。
「旦那様。その女の誘惑にまだかかっているのですか? アタシが本物の番。お互いに反応してるではおりませんか」
「そうだ。だからケジメをつけたいんだ。そのためにも花純と話がしたい」
「紫暮様……!」
梨亜奈と番であることは確定したんだ。
ならば花純は略奪者でしかない。
話し合いもなにも、完全悪なのだから紫暮に責められてもおかしくない現状なのに。
番を奪われて憤怒に狂っているのは梨亜奈だけ……。



