あやめも知らぬ恋



夏も終わりに近づいて、夕暮れ時は生ぬるい風が頬を撫でる。

ずいぶんとセミの鳴き声も数が減ってきたのか、鈴虫へと出番を移しているように見受けられた。

銀座から戻り、屋敷の縁側を歩いていると中庭で紫暮と梨亜奈が会話しているのを目撃する。


「旦那様! せっかく地上にいるのですからデートしましょう! アタシ、あいすくり~むが食べたいわ!」

「…………」

紫暮は時折尾を反応させながらも煙たそうに眉間にシワを寄せていた。

あれから私に対して番の反応を見せない。

本当に私はニセモノで、鬼の誘惑とやらの効力だったのだと、心にぽっかり穴が空いた気持ちになっていた。

(お似合いだ。……きっと紫暮様もすぐ好きになる)

梨亜奈は愛らしい乙女の顔をして、頬を染めながら紫暮を一途に見つめている。

まだあどけなさは残っているが数年もすれば、艶やかな美女になることはすぐにわかった。

腕に抱きついてピッタリとくっついていても紫暮は振り払おうとしない。


(見たくない。私、もう決意したんだから……)

未練は残さない。

鬼の誘惑の断ち切り方はわからないけれど、私の中でその意思が消えれば必然と無くなるはず。

今はまだ、私が紫暮に想いを残している。

だから煮え切らないだけのこと。

本来の番がいるのに、愛した人のあるべき幸せを邪魔したくはない……なんて、綺麗事を言いきれない自分を鼻で笑うしかなかった。