あやめも知らぬ恋

(三、四年前って、楓がいなくなった時期と同じ……。しかも鬼って。媛巫女が封印したってなに? どうして媛巫女がおかしくなるの? どうおかしくなったと……)

「かすみぃ」

ハッとして視線を落とすと、瞳に涙を浮かべた蛍がぐずぐずと鼻水をすすっている。

私はすぐに蛍を下ろし、手荷物から白いハンカチを取り出して蛍の鼻を拭った。

「ごめんね。どこかで休む? それとも帰り……」

「ママ」

「え?」

呟かれた単語に目を丸くしてしまう。

「ママ、いろんなひとにヒメミコサマってよばれてた」


あぁ、直感が告げていたのかもしれない。

これは蛍や楓と関係のある話だと。

蛍がママと示していた媛巫女とは、彼らが話している媛巫女と同一人物なのだと。

鈍器で殴られたような衝撃に足元がふらついて、蛍の前で膝をつき小さな肩に寄りかかってしまう。

「かすみ? だいじょうぶ?」

「うん、大丈夫。ありがとう。教えてくれて」

「……うん」

か細い声で頷き、私の背に小さな手を回してくる蛍。

そっと抱き上げて、背中をポンポンと撫でながら銀座の街を後にする。
那波の待つ場所へ戻る頃には、蛍は疲れて眠ってしまっていた。

(京、か……)

それを聞いた以上、これからの道は決まった。

元々、蛍を守るため。

楓と再会するためにここまで来た。

少し甘ったるい日々が続いて、本来の目的を忘れていた。

覚悟は定まった。

蛍を連れて京へ行こう。

きっとそこに楓の手がかりがある。

そして蛍の母親である媛巫女に謁見を願おうと決意した。