あやめも知らぬ恋


甘いものでも食べて帰ろうか。

それとも蛍の好きなトロトロ卵のオムライスか。

それさえも私の力ではなく、紫暮に頼りきった財力だ。

誰かに頼らなくては蛍一人守れない。

男の人を困らせて、利用して……まさに〝鬼の誘惑〟でしか成せないことを実現していた。

(紫暮様みたいに素敵な方が私を好きになるはずがなかった。こんなみすぼらしい鬼子を誰が本気でーー)

「なぁ、ちぃと京にいる知り合いから聞いた話なんだけどよ。おめぇ、媛巫女様って知ってるか?」

時計塔の前で洋装をした男性が二人、大きく身振り手振りをしながら話している。

「あー、聞いたことはあるかなぁ。京に結界を張る高貴な方々のことだろ? 媛巫女を名乗れるのは直系の巫女様だけだとか」

「そうそう。その媛巫女様なんだけどよぉ。どうも様子がおかしいらしくてな」

(媛巫女ってたしか蛍ちゃんの……)

わからない。

だけど何故だか気になってしまい、私はとっさに白い柱に隠れて男たちの会話に聞き耳を立てる。

「三、四年前だったか、京を鬼が襲った事件があったじゃないか。それを媛巫女様が封印したらしいけど、それから媛巫女様がどんどんおかしくなってるって、ある伝手で聞いてよ」

「へぇ、どんな風におかしくなったんだ? それ、面白そうだから記事に取り上げたいねぇ」

銀座は新聞社の立ち並ぶゴシップ街でもある。

つまりこれは情報の取引というわけだ。

「おっと。この先は言えねぇな。ここからは本当に媛巫女様と縁ある伝手からしか入手出来ねぇ話だ」

「おいおい、そこまで話しておいてズルいじゃないか。よし、ちょっとそこらで珈琲でもどうだ?」

そんな会話を繰り広げ、彼らは取引のためにこの場を離れてしまう。

(待って。蛍ちゃんはママが自分のことをわからなくなったと言ってた。それって、この話と繋がってる?)

やけに気になる内容で、頭の中でぐるぐると同じ疑問が廻っていた。