「ずいぶんと舐められたものだ」
「えっ……?」
ドンッと肩を突き飛ばされ、壁に押付けられる。
とっさに逃げようと身を捩ったが、右に左にと手をつかれ、逃げ道を奪われてしまった。
「なぜわからない? ずっと伝えてきたつもりだったが、何も届いてなかったのか? それほどまでに俺は信頼がなかったのか!?」
最後はやけくそに叫ばれて、肌がビリビリと痺れた。
竜人の威嚇は人間の怒声と異なり、相手を萎縮させるだけの強者の音が混じっている。
竜人としての格が高ければ高いほど強く、直接食らってしまった私の腰が崩れてしまうほどだった。
「うあああああんっ!!」
同様に響きを浴びてしまった蛍が、耐性もないままに怯えて泣き出してしまう。
「シグゥのばかぁ! こわいよォ! かすみのことイジメないでよぉ! ええええん!」
「蛍……! ごめん、俺は……」
「ああああああああっ!!」
こうなれば泣き止むまで相当時間がかかる。
紫暮がいる限り蛍は圧を拾ってしまう。
子どもは相手のささいな変化に敏感で、自分に向けられたものでなくてもトラウマになる恐ろしさがあるようだった。
蛍を泣かせることは紫暮も望まないこと。
「すまない。今日は止めておく。……ちゃんと話したい。だから花純の気持ちが整ったら教えてくれ。ずっと待ってるから」
そう言って紫暮は「夜は冷えるから」と襖を閉めて去っていった。
私は暗くなった部屋で燈籠に明かりを灯し、蛍を抱き寄せて泣き止むまでずっと背中を撫で続けた。
泣けない私の代わりに蛍がめいっぱい泣いてくれているような気がして、少しばかり心が救われる思いだった。



