あやめも知らぬ恋

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お参りを終え、帰り道を歩いていると遠くにお屋敷が見えてきた。

入口となる門の前に人影が立っている。

近づくにつれ私の足は重くなり、腕を組み寄りかかっている梨亜奈を認識してついに一歩を踏み出せなくなった。

梨亜奈が居着くようになって、私と紫暮の関係に異変を来たしていると悟る蛍が怯えて後ろに隠れ込む。

ほんの一瞬、前方から目を離したとき、ゴッと強い向かい風が髪をバサバサと後ろに荒ぶらせる。

翼を生やし、地面を蹴り飛ばして一気に梨亜奈が距離を詰めていた。

「アナタ、いつまでいるのよ」

猫のように目尻のあがるパッチリ二重の目元をした梨亜奈。距離が詰められるとその迫力に息を飲んでしまう。

「竜人は高貴な存在なの。鬼子と番であるはずがない。前代未聞よ」

冷静に考えれば梨亜奈の言っていることが最もなのに、なぜ紫暮は番だと信じ込んだのか。

それも鬼の誘惑の効力なのか。

疑念も抱かせない誘惑だとしたら心をねじ曲げたに等しい。罪深すぎて救いのないことだ。

鬼はあやかしであり、古では人と争い世に混乱を起こした大罪種族だ。

衰退していくべき種族が、誰からも尊ばれる竜人と愛し合えるはずがなかった。

どんなに蛍は蛍だと口では言って鬼子を振り払っても、自分の中に染み込んだ劣等感だけは鬼子として固着していた。

「旦那様を困らせないで。旦那様はお優しい方だから強く突き放せないだけ。だったらアタシが言うしかないじゃない? 奪われそうになった側の気持ちも理解してほしいものだわ」

やめて。

紫暮が優しいことなんて、私が一番知っている。

番だからと誇り高そうに言わないでよ。

そう思っているのに一言も言い返せない。

梨亜奈に頭を垂れると、蛍の手を握ってそそくさと屋敷へ駆け込むしか出来なかった。


中に入ると紫暮が今日も部屋で待っていた。

蛍の手を引いて部屋に戻ると、紫暮が立ち上がり私と距離を詰めてくる。

「花純。話が……」

「すみません、まだ……。ちゃんと考えますからもう少し……」

「あと何日だ」

珍しくトーンの低い声に顔を上げると、久しぶりに紫暮の青い瞳を見た。

どうしてそんなに波紋を広げる湖のように、見ているだけで胸を締めつける憂いを宿しているの?

それさえもまだ、惑わしての結果なら見たくない!

「紫暮様が冷静になるまで! その上で私にどうして欲しいか伝えてください!」

「俺は冷静だ! だから話をしたいと……!」

「どこがですか!? 冷静なら梨亜奈さんのこと大事にしてあげてください! つ……番なんですから!!」


自分でも何を言っているのか分からなかった。

どれも内に溜め込んでいた本音ではあるが、中途半端に飛び出すだけで可愛げひとつない。

いや、可愛らしさなんて出してはダメなんだ。

紫暮が幻から覚めてくれないと、梨亜奈が辛い思いをし続けることになってしまうのだから……。