あやめも知らぬ恋

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その日はまずはお屋敷周辺の町を歩いて聞きまわった。

「いや、知らないねぇ」

「そうですか……。ありがとうございます」


翌日は隣町へ。それでも情報がなければさらにさらに向こうへ進んでいく。

帝都と一言では言えてもすべてを回るには何ヶ月もかかるだろう。

人の集まる地を中心に回ろうと計画を練り直し、蛍を連れ一日をかけて浅草巡りをした。

銀座とはまた異なる下町感のある発展の仕方だ。

大衆劇場に食事処。

あちこちに銭湯があり、神社仏閣も多く見受けられた。

「蛍ちゃん。神様にご挨拶していこうか」

「神様?」

「うん。八百万の神って言ってね、この国にはたくさんの神様がいらっしゃるの。水の神様、学問の神様、恋愛の神様。神社という場所を通じて神様に感謝を伝えるのよ」

いくつか大きな神社があるようだが、どこに行こうかと思い悩んでいると、蛍が爽やかな青い空を眺めて呟いた。

「ママに会いたい……」

その言葉にハッとして蛍と目線が会うように膝を着く。

ずっと楓に会わせたい気持ちを優先してきたが、蛍からすれば会ったことのない父親より母親を恋しく思って当然だ。

私は蛍を抱きしめて「大丈夫だよ」と言っても気休めにしかならない。

どうして蛍は母親の元を去ることになってしまったのか、その背景を知らないのだから。

「……縁結びの神様に会いに行こうか。お父さんとお母さん、二人とまたご縁が繋がりますようにって」

「うん!」

これくらいの慰めしか言えなくてごめんね。

まだ蛍には母親の話を詳しく聞けていない。

わかっているのは名前と、媛巫女と呼ばれていることだけ。

それ以上は傷を抉るかと思うと怖くて聞けなかった。

自分が滅多打ちにされるより、蛍の瞳から光が消えてしまう方が嫌だったから、傷つけない言葉を考えて考えて……まだ尋ね方を見つけられずにいた。