「かすみ? 大丈夫?」
蛍の問いかけに私は大人の顔をして答えることも出来ず、笑って誤魔化しながらも抱きつかずにはいられなかった。
(蛍ちゃんを守る。誰かに頼ろうなんて甘えてた)
これからどうしようか。
南条家には戻れないだろうから働き口を探すことからはじめるべきか。
少なくとももうここにはいられない。
こんなにも胸が張り裂けそうな想いは耐えられそうにないから……。
「花純っ!!」
バタバタと縁側を走る音がして、何やらいかつい機械を抱えた紫暮が部屋に飛び込んできた。
私が目を覚ましているのを確認すると、血相を変えて駆け寄り、荷物を置いて蛍ごと抱きしめてきた。
「きゃっ!?」
「よかった! 目を覚まさなかったらどうしようかと!」
「あっ……あの……紫暮様……」
「本当に……よかった……」
どうしてそんなに震えているの?
どうしてそんな風に沈痛な面持ちなのだろう?
番でないと判明した私にやさしくする理由なんてはいはずなのに、どうして子どもみたいに泣きそうな顔をしているの?
あぁ、嫌だ。
どんどん醜い感情が溢れ出る。
グツグツと煮えてしまった黒いヘドロは抑え込もうとしても手を飲み込んで底へ底へと沈めてしまう。
もがいても泥は重たく、身体にまとわりついて動くこともままならなかった。
息が出来ない。
溺れていくのに口を開けば汚泥が流れ込んできて、鮮やかに咲かせようとしていた花までも押し潰す。
どうかそんな花を見ないでと――私は紫暮を突き飛ばしていた。
「すみません。今は、このままそっとしていただけませんか?」
「花純?」
二人の事情に蛍を巻き込むわけにはいかない。
そっと蛍を離し、紫暮と一定距離を保つよう後退すると畳に手をついて頭を垂れる。
「お願いします。私にも気持ちを整理する時間が必要なのです。……必ずケジメをつけますので、どうか」
「花純、俺は……!」
「お許しください」
今はとても顔向けできない。
ニセモノなんかにやさしくしないで。
辛く当たられる方が楽かもしれない。
知らなかった温かさに希望を抱いてしまうから。
ニセモノでも”花純だから”大切にしてくれるかもしれないと、期待して身勝手に失望してするのはもう嫌なの。
誰も裏切ってなんかいないのに、勝手に傷ついて暴言を吐きそうな自分が嫌になるんだ。



