あやめも知らぬ恋

「すみません! わ、私、番ではありません……!」

「はっ?」

喉が焼けるように痛い。

曖昧にしておけば自然と紫暮も気づくこと。

私にとってもそれが楽な道だが、紫暮が傷つく未来を想像するととてもではないが罪悪感が酷く、胸が苦しくなった。

「蛍ちゃんと暮らしていける場所が欲しい! でも竜人様に嫁ぐことは許されません!」

「許されない? 何故だ。花純は俺の番だ。何よりもそれが証ではないか」

蛍さえ守れるなら何だっていい。

下仕えだろうが、愛人だろうが、求められれば私は身を粉にして応えていく。

だが竜人相手になると、求婚だけは受けられないと身体から熱が引き、最悪な現実に身を震わせた。


「私は鬼子です。父が鬼、母が巫女の……鬼子なのです」

鬼の子を産む。

そういった話がないわけではない。

問題なのはあやかし退治をする巫女が鬼と子を設けてしまったことだ。

禁忌の子として私と楓はまわりから冷遇されてきた。

唯一守ってくれたのが母の綾芽であり、亡くなってからは楓が盾となってくれた。

(それがわかってるのに、楓はどうして……)

私は弱くて、巫女にもなれない役立たず。

血を分けた双子の弟・楓がいなければ私はとうに死んでいた。

行方不明になった楓を見つけることも出来ず、突然現れた楓の一人娘を守る力もない。

だから今、残された選択肢は嫁ぐ以外で蛍を守れる道を掴み取ることだ。


「鬼子が竜人の番だなんて、間違いです。なぜそう思われたかはわかりませんが、まだ間に合います。どうか下仕えとして私を……」

「鬼子だとわかって言っているんだが」

「……えっ?」

それはひどく不機嫌で。

ムスッと眉をひそめ、蛍ごと抱きしめると急降下し、お庭に敷かれた飛び石と玉砂利を超えて屋敷の中に飛び込んだ。