「紫暮様……。あの……」
「だましたのね……」
答えを知りたい欲求と知りたくない不安。
葛藤に言葉を詰まらせていると、久美子が憎悪を含まらせた目をして梨亜奈を睨んでいる。
紫暮の番になれると信じ込んでいた久美子はその勢いにのって梨亜奈に襲いかかるが、竜人に敵うはずもなく……。
「紫暮様も罪な方」
梨亜奈は久美子の腹を蹴り飛ばし、さも当然だと爽やかに微笑んでカナリア色のツインテールを揺らす。
強すぎる蹴りに久美子は吐血し、地面に転がるとそのまま意識を失った。
せっかくの白無垢も血と煤に汚れ、清らかな花嫁の面影はどこにもない。
巫女として南条家を支えていた久美子でも、竜人の美しさを前にしては執着心があおられる。
(わからない。わかりたくもない。なのにどうして)
周囲からの憧憬と巫女としての強さと華やかさ。
同性が羨むすべてを持ちあわせながら、まだ欲しがるのか。
花純からすべて奪う気ではないかと思うほどに、久美子の激情は末恐ろしかった。
(私は……傷ついているの? ニセモノだと言われて?)
”番”の誤解を解かなくてはと思っていたのに。
いざ現実を突きつけられると、私はそれを受け入れたくないはずなのにどこか諦めを抱いていた。
自分が愛されるはずがない。
間違いだとわかっても納得してしまう空虚さを持て余していた。
(鬼の誘惑ってなに? 私は一体何をしたの?)
「花純!?」
声が遠のく。
喉が引き裂けそうに痛く、頭は重たくて首で支えるのも難しい。
わずかな砂利を擦る音さえわずらわしく、耳を塞ぎたくてたまらない。
ニセモノだとわかっていて、今になって自覚するのは残酷だ。
こんなことになるならはじめから紫暮と関わらず、未来に希望なんて抱きたくなかった……。
空は暗雲。雷が雲を引き寄せたのかもしれない。
空色の瞳は今の私には広々と自由を象徴しすぎていたと、悲しみに沈むように意識を手放した。



