あやめも知らぬ恋


緊迫した空気のなか、カナリアの竜人がウットリとして紫暮の前に駆けよってくる。

その尾は紫暮と同じように毛が薄紅色に染まっており、可憐な恥じらいに頬を染めていた。

「はじめまして。あたし、梨亜奈といいます。紫暮様の本当の番よ」

「本当の……番?」

梨亜奈の発言を理解していないくせに吐き気が襲ってきて、喉の奥が胃液に焼ける。

頭のなかを無作為に殴られている感覚に、末端から冷えていく寒さに耐えられず紫暮の手を掴んだ。

なんでもないと凛として構えていたいのに、動揺が大きすぎてそれが精一杯だった。

「何を言っている? 俺の番は花純……」

「それは鬼の誘惑。鬼子が本当の番なはずがないって、紫暮様こそよくわかっているのでは?」

花を踏みつぶされるように、どんどん内側で感情が壊れていく。

ぐしゃ、ぐしゃ、と……。

顔をあげられないほどに目まいがして、これまで拭いきれなかった疑念は「ほらやっぱり」と嘲笑うように急激に膨らんだ。

冷たい汗が頭皮から流れ、肌にはりつく湿気のキモチわるさに必死に汗を拭おうとする。

「俺は初対面から花純を番と認識した。遅れての反応ではない」

「それがよくわからないけれど。でも紫暮様は間違いなくあたしの旦那様」

梨亜奈の背には誇らしげなカナリア色の翼。

同じ色をした尾はまるで金が塗られたように光沢があり、見目麗しい。

煌びやかな竜人の姿に、ほんの少し愛らしさを添えた薄紅色の毛。まさに番としての反応だ。

ここにいる番として反応が出る距離にいる異性は紫暮のみ。

疑いようがないのは、紫暮も同じように薄紅色の毛を生やした尾を伸ばしていたから。

私に反応してなのか、梨亜奈を番だと認識してなのか。

本人の意志関係なく反応する尾に一番戸惑っているのは紫暮だった。