あやめも知らぬ恋


「あーぁ。あなたが引いてくれれば話は簡単だったのにぃ」

前方からカナリア色の髪と瞳をした大人と少女の境目の容貌をした竜人がぬっと顔を出す。

陶器のような滑らかな肌に鱗模様を生やしており、私を見下ろして鼻で嗤った。

「鬼の誘惑ね」
「えっ?」

氷のように冷たい眼差しが落とされたのち、地面に倒れる久美子に視線が移った。

「久美子さんっ!?」

久美子はボロボロになった身体を腕で支え、カナリアの竜人を睨みつける。

「業の深い娘。本当に竜人の番になると思ったのかしら?」

「お……義姉さ……まのはずがない。鬼子で巫女としても無能。わたくしが負けるはずなくってよ」

「無能ね。たしかに巫女としては無能。だけど鬼子として無能とは誰も言っていないわ」

「はっ、はは。何よそれ。おかしいわ。それではただの鬼よ」

(なに? 何を言っているの?)

久美子と竜人の女の会話はあまりに奇妙で、私のことを語っているのに本人が無自覚だ。

全身が熱くなるなか、無傷でいる自分の薄気味悪さに焦り、紫暮に救いを求めて振り返る。

「紫暮さっ……!」

「どういうことだ?」

紫暮が竜人の姿に変わっている。

竜人の変貌に適応しない黒紋付の恰好はあちこち破れ、巨大な翼と尾が外に飛び出していた。

ただ竜人化しているならよかった。

(なぜ今、ここで……?)

腕や首筋、頬にまで鱗模様が浮き出て、竜人として興奮しきった反応をみせている。

なにより衝撃的だったのは、私にしか見せなかった尾が薄紅色に染まっていることだ。

番にしか向けられないはずの反応に、紫暮は顔を真っ赤にして私の両肩を掴む。

「ちがっ……! これは!」

「紫暮様……?」

「あぁ、やっぱりそうだ。おかしいと思ってたの」

爆発騒ぎに人々が様子をうかがいに近づいてくる足音が聞こえた。