あやめも知らぬ恋


「お義姉様は番ではございませんの。……ニセモノ。鬼子とは卑怯な生き物ですね」

身の毛もよだつ発言に心臓が破れ、とっさに久美子の肩を弾いてしまう。

押されて後ろにバランスを崩す久美子と一瞬目が合うと、光の灯らない歪さでも目を細める姿がやけに焦げ付いて見えた。

身動きの取りづらい白無垢で転倒しそうになり、それを紫暮が手を伸ばして止めた――瞬間、紫暮の目が見開かれ、直後に背中から巨大な翼が突き出す。

結納の儀のために用意した黒紋付を突き破った翼に
紫暮は酷く動揺し、忌々しいと表情をしかめて久美子を睨みつけた。

「お前、なんだ? 以前と違う」
「ふふ、ですから。わたくしが紫暮様の番なのですわ」

折れることなく久美子は紫暮の番だと主張し続ける。

紫暮は舌打ちをし、侮蔑をこめて久美子への建前を放棄した。

「ありえん。俺の番は花純だ。何を企んでいるかわからんが、龍人を敵にまわすとろくなことがないぞ」

「鬼子を娶らせるほどの恥はございません」

「久美子さ……っ!?」

バチバチッ……と室内に電流が走る。

西洋の丸い電球が点滅を繰り返し、しばらくすると外からの突風とともに窓ガラスが割れた。

「キャアアアアアアッ!?」

ガラスの破片が激しく襲いかかってきて、何の力ももたない私は避ける術がなく、頭を抱えて目を閉じた。

そこに紫暮がいち早く床を蹴り飛ばして私を抱きしめると、翼をはためかせて扉を破壊し、安全地帯まで後退した。

カタカタと小物が揺れては落ち、電球はついに明かりを消してしまう。

まだ何かが起こりそうなざわつく空気のなか、紫暮の胸を押して振り返る。

いくら巫女でも物理を避ける術はないはずなのに、久美子の周りは電流が走って生涯すべてを払っていた。

今まで久美子が持ちあわせていなかった力に私は身をすくませ、紫暮の襟元を握りしめた。