あやめも知らぬ恋


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到着したのは帝都の中心地にある神社であり、一部の華族の間で”神前式”を行うのが浸透しだしていた。

南条家も巫女の一族のため、格式ある神社で祝いの舞いをしに久美子がよく出ていた。

家で舞いの練習をする久美子を何度か見たが、とても神々しくて美しかったことを覚えている。

今回は久美子が祝われる側であり、おそらく傍系から巫女たちが派遣されてくると予想された。

「あれって鬼子の……」
「ねぇ、見て。なんて美しいの……」

いつもなら紫暮は人前に出る時、成金の瀧澤の面を被るが、今回に限っては素顔のままで参加するそうだ。

紫暮の美しさを周りに認めてもらえるのは喜ばしいが、同時に私の中に劣等感が募っていく。

自分では紫暮のとなりに並ぶのはふさわしくないのではないか?

少しも望んでいないのに耳は勝手にひそひそ話を拾ってしまい、無自覚にうつむいてしまっていた。

鬼子として指をさされてきた人生、卑屈さはそう簡単に消えるものではない。

「花純。臆する必要はない」
「紫暮様……?」

それを紫暮は重々承知しており、それを含めて私に寄り添う姿勢をみせる。

だから尚更胸が痛むなんて言えない。

南条家の者として待合室に入ろうとする直前、紫暮が足を止めて私の強張った頬を包み込んだ。

「自信を持て。お前は美しいのだから」
「……紫暮様は本当にサラッと褒めてくださりますね」

腐ってしまった実を熱したところで紫暮に見合うキラキラした粒になるはずもないのに……。

「本当のことだ。花純は俺の番。……これでも我慢している」
「ひゃっ!?」

額に唇が触れたかと思えば、スライドして頬から耳たぶと移る。

外見だけでもまぶしいくらい美しい殿方なのに、態度も一貫して甘い。

”番”というだけでこうも気が狂いそうな甘さになって、卑屈に走りきれない愛情に身が震えた。

そこに待合室の扉が開き、本来まだ出てくるはずのない真っ白な身なりをして、唇に紅を咲かせる女性が顔を出す。

「ようやくお会い出来ました」

艶やかな久美子の声が突き刺さる。

まるで雪のなかに咲いた椿のようなゾッとする美しさだ。

身震いするほどに強く咲く一輪花に当てられ、急くままにお辞儀をした。

「久美子さん。お久しぶりです。この度は孝成様とのご結婚、おめでとうございま――」

「あぁ、わたくしの旦那様! 紫暮様、お待ちしておりました!!」

久美子は私に一切目もくれず、盲目にギラギラした瞳を紫暮へと向けて胸に飛び込んでいく。

以前、竜人には気軽に触れるなと警告したにも関わらず、無作法に手を伸ばしてきた久美子を紫暮は牙をむいて突き飛ばした。

「触るな。いくら花純の義妹だとして、こうも近寄られるのは不快だ」
「……本当に、お義姉様はひどい人」

赤い紅を縫った唇にゆったりとした孤を画き、ウグイスのような声で喉を鳴らして笑いだす。

重たそうな白無垢を流れるような動作で滑らせ、私の耳元に顔を近づけてひっそりとした声で一言。