あやめも知らぬ恋

か弱い泣き顔をした蛍に、私はいとおしさを抱いて頷いた。


「絶対に楓は蛍ちゃんを愛してる。それは私が自信をもって言うよ」

「会ったこともないのに?」

「うん。楓は絶対に光莉さんのこと、好きだった。だから蛍ちゃんが産まれた。……ド直球な奴だから大丈夫だよ」

いい加減なことはしない。そう知っているからこそわからなかった。

どうして子どもをつくっておきながらどこかへ行ってしまったのか。

子どもを置き去りにするような無責任な奴じゃないから、理解が追いつかなかった。


(私が守る。楓を信じるから。蛍ちゃんを大事にするから)

「蛍ちゃん、大好き。他の誰でもない、私として、蛍ちゃんのそばにいちゃダメかなぁ?」


腕の中で蛍の身が強張る。

答えを焦らせてはいけない。

私から心を開かなくて蛍に届くはずもないのだから。

そう思い、色褪せた息を吐いて蛍を腕から解放しようとする。


――ぎゅっ。

だが小さな手がそれを止めた。

驚きに目を見開くと、真っ赤な目をして蛍が身体をひねり、涙をいっぱいに揺らめかせて私の着物にしがみついた。

「かすみ。いかないで」

「蛍ちゃ……」

「いい子になるからおいていかないで。わがまま言わないから、だから」

「そのままがいいよ」

ストレートな表現は互いにまだ恥ずかしい。

それでいい。それが今できる愛情の示し方だ。

背伸びをせず、等身大で向き合おうと蛍を抱き上げ、満ち足りた気持ちで頬擦りをした。


――それからあきれるくらいに二人で泣いて、最後に笑顔を向け合った。

手を繋いで紫暮たちのもとに行ったときには喉が枯れ、話しは翌日にしようとその日を終えた。