あやめも知らぬ恋


「はっ!? えっ、飛んでる!?」

何が起きたかわからずアタフタしていると、青年の背中から銀色のトゲトゲしい皮の張った翼が生えていることに気づく。

「竜人……?」

まさかそんな天の生き物が私に求婚したと?

あまりに常軌を逸脱するありえない出来事に固まっていると、腕の中から蛍がモゾモゾと顔を出し、空を飛んだことで広がった光景に息を飲んでいた。

「あの……まさか貴方様は……」

「紫暮だ。そう呼んでくれ」

空色の瞳に情けない顔が映ったと目を見張っていた直後、私の背中に何か重くて固いものがあたった。

(なに……?)

なんとか身をよじって背中を叩いてくる”何か”を確認する。

紫暮の尻あたりから伸びている水銀色の鱗に覆われた太い尾には、同色のたてがみが生えており、尾の先端部は薄紅色の毛に染められていた。

いわゆる”竜人の尾”だと気づき、私の背中を撫でるたびに鱗が天の川のような輝きを放っていた。

「し……ぐれ様は竜人なのですか?」

「そうだ。それでお前は俺の番だ」

竜人とは空にあるという龍人の国に住まう生き物のこと。

背中に龍の翼を持ち、空を飛ぶことを誇りとする種族だ。


「りゃーじんって……?」

はじめて見る神々しく勇ましい存在に蛍が興味を示す。

ここまでの時間、ずっと最低限の会話しかしてくれなかったため、蛍の意思で口を開いてくれたことは何よりも胸を熱くした。

「空の向こうに住まう尊き種族なの。地上には滅多に現れないんだけど……」

なぜ竜人という誇り高き生き物が、私なんかを”番”と呼ぶのだろうか。

番とはいわゆる竜人の伴侶になる存在だが、それが私だというならば大変な間違いだ。

誤りに気づいた私は焦り、腕の中で真っ赤になりながら首を横に振った。