あやめも知らぬ恋

「だっていなかった! パパはいなかったよ!? なんで!? なんで蛍にはパパもママもいないの!?」

それが蛍の押し殺した本音。

誰にも打ち明けられずに心を押し殺し、南条家でも冷遇されて心は乱れてしまう。

どうすればこの寂しさは満たされるのか、子どもにわかるはずもない。

暴れるしか気持ちをぶつける手段がなく、当てつけで私を困らせようとイタズラに走った。

楓の姉だと名乗る私を。

同じように阻害される身で、蛍を愛するはずがないと。

南条家の者は蛍を蔑ろにした。わずか三歳の子どもにするような行為ではない。

私が誰かに愛されるのを信じていないように、蛍は大人から愛されることを信じていなかった。

特に私が愛してくれるはずもないと、諦めきれない葛藤に行動は抑えられなかった。


「あああああっ! ごめんなさい! いい子になるから! 蛍のことキライにならないで!!」

「ならない。大好きよ。ごめん、ごめんね……」


こんなこと、普通の子どもは言ったりしない。

そう言わせてしまう大人の業。

今までは楓の代わりという気持ちで接してきたが、それではダメだと悟る。

蛍に必要なのは、誰の代わりでもない愛情。

本人の意思で、蛍のために向けた愛しか届かないと痛感した。


”愛してる”を届けたいのならば、私が本音を語らないでどうする?

この不安もすべて、蛍に伝えなくては分かり合えない。

思いは抱えているだけでは伝わらない。
口にしないと伝わらないことはたくさんあるのだから。


「私のお母さん……。蛍ちゃんのおばあちゃんね。巫女だったの」

蛍のマシュマロのようにやわらかい頬を撫で、涙を拭った後、トントンと蛍の腕を叩く。

「不思議な話。鬼と愛し合ったんだって。それで私と楓が生まれたの。……蛍ちゃんのママと一緒」

「いっしょ……?」