あやめも知らぬ恋

「ごめん。まだ見つけられないんだ。……必ず見つけるから」

「……もしかしてずっと探してくださっていたのですか?」

その問いに紫暮は目元を赤くして小さくうなずいた。

私が楓探しで出来ることと言えば、街で警察や郵便局員に尋ねるくらいしかない。

ちゃんと約束を果たそうと向き合ってくれていたことに目頭が熱くなり、歯がカチカチと鳴りだした。


「あ、ありがとうございま……」

「かわいい妻のためならいくらでも」

紫暮は甘い発言に抵抗がないのか、器用にささやいて接触してくる。

唇が耳に揺れ、下降して首を甘噛みされて声が漏れてしまう。

そのままゴソゴソと紫暮の手が帯に回り、するりと解いたかと思うと手のひらが左胸に触れた。


「だ、ダメです! それ以上は契約外です!」

甲高い声で紫暮を突き飛ばし、近くにあった座布団を拾って投げつける。

身体中の痺れた感覚に震え、八つ当たりで何度も座布団を拾っては投げるを繰り返した。

まるで蛍の暴走みたいだと、自分のパニック時に行動を知り、恥ずかしいけれど蛍に気持ちをさらそうと心に決めた。


***


気持ちが落ちついたところで蛍と向き合おうと部屋を出る。

別室で那波と蛍が折り紙をして遊んでおり、那波と入れ替わりで私は蛍の前に腰かけた。

緊張しているのか、折り紙で遊ぶ手を止め、唇を尖らせてうつむく蛍。

バツが悪そうな表情に私はクスリと笑うとそっと手を伸ばし、まだやわらかい紫紺の髪を撫でた。


「ずっと聞いていいのか悩んでいたことがあるの。……蛍ちゃんのお母さんのこと」

直接的に問うと、蛍はビクッと肩を震わせておそるおそる顔をあげる。

叔父の白彦も口を割ろうとしなかった蛍の出自。

楓が父親とわかっても、三年間一緒にいたはずの母親の面影がまったく見えてこなかった。