あやめも知らぬ恋

だが数秒遅れてみるみるうちに目が透明の水膜に覆われていく。

「うあああああんっ! あああああああっ!!」

爆発するが如く、肌をビリビリさせるほど大きな声でわんわんと泣き出した。

「ご、ごめん蛍ちゃん! 大丈夫、大丈夫だから!!」

「うぎゃあああああああっ!!」


あぁ、どうしてだろう。

せっかく蛍と距離が近くなってきたと嬉しい気持ちになっていたのに。

最近は暴れないと思っていたのにどうしてなのか。
いつまで経っても心が通じない。

理解してあげられない。

やっぱり蛍は私のことが嫌いで、楓を連れ戻すという言葉にも期待していないのだ。

何が嫌われる原因かもわからず、直そうにも直せない現状に私まで泣きたい気持ちになっていた。


「おい、どうしたんだ? 外まで泣き声が……」

玄関口から駆けてくる足跡に顔をあげる。

白銀の髪を乱して、外出から戻ってきた紫暮が泣き声に危ぶみ急いで部屋に飛び込んだ。


「……那波。少し花純と話しがしたい」

「わかりました」

紫暮の言葉に那波はスッと前に出て、蛍に手を差しだす。

泣きじゃくっていた蛍はあたりを見回し、鼻を鳴らしながら那波の手を取り立ち上がる。


「蛍ちゃーー!」

「蛍。すぐに終わるから。少し待ってな」

おだやかな紫暮の声に蛍は涙を拭って頷いた。

すんなりと紫暮の願いを聞き、那波と部屋から出ていく姿に私はショックを受け、腕を擦って俯いてしまう。

上手くいかないことばかりで、蛍の気持ちを乱してしまう。

どうすればうまくやっていけるのか。楓のように気さくで人懐こい性格だったらもっと馴染めた?

何もかも下手くそな自分が嫌だ。吐き気がする。

ただ蛍と仲良くしていきたいだけなのに、どうして気持ちはすれ違う――?


「花純」

そっと抱きしめられ、息が引っ込んだ。