あやめも知らぬ恋

その際、首にさげていたペンダントが襟元からはみ出て、中の黒いキラキラの砂を揺らしていた。

「綺麗……」

真っ黒な砂ではあるが、光の角度が変わるごとに煌めき方を変える。

思わず魅入ってしまうと、那波は決まり悪そうに後頭部をかいて視線を上向きにさ迷わせた。


「見た目はね。でも良いものではありませんよ」

「これは一体……?」

謙遜する那波を不思議に思い、首を傾げる。

すると那波は弱り果てたもの切ない微笑みを浮かべ、ペンダントのチェーンに指をかけた。


「自分の番です。竜人は死ぬと翼が砂のように崩れます」

「死ぬって……」

那波には番がいたことがあり、何らかの事故または事件で亡くなってしまった。

翼が竜人から離れて、砂となる。

番を失えば次の縁を待つことになる。

番がいたが、失われた場合の証明として相手の一部を身に着けるのが竜人の習慣だった。


(それだけ番の存在が大きいということね……)

それくらい堂々と紫暮のとなりに立てる人物であればよかったと、自虐に微笑む。

どれだけ求愛されようとも自信がもてない。

誰かに愛されると言われても、条件付きの愛としか思えず、愛される価値のある人間と思っていないことから信じるのが困難だった。


「弱虫!」

私と那波の間からピシャリと声を発する。

ぎょっとして間を見れば、いつも以上に機嫌を悪くした蛍が私を睨んでいる。

戸惑いながら蛍を呼ぶと、蛍は部屋のなかに駆けあがり桐ダンスを開くと中身をぐしゃりと放り投げた。


「蛍ちゃん!?」

慌てて止めにかかるも、蛍はギャーギャー叫んで手足をばたつかせる。

何が蛍の癪に障ったのかわからずになだめようとしたが、蛍の爪が私の頬を下から切りつけてしまう。

軽く血が飛んで、ようやく蛍は騒ぐのをピタリと止めた。