あやめも知らぬ恋

「いいよ。ななみ、ご本を読んで」

あっさりと蛍は了承し、那波と打ち解けてあれしたいこれしたいと口にする。

私には何も言ってくれないのに、紫暮と那波の方がずっと距離が近いように感じて涙目になった。


一緒にオムライスに挑戦したり、水撒きをして、お風呂に入ってと仲良くしてきたつもりだがまだまだ蛍は手厳しい。

これでは楓に再会したとき、笑われてしまうと情けなさにがっくりと肩を落とした。


「当日の服装はどうしましょうか。すみません。おそらく竜人のマナーとは異なりますよね?」

那波は基本的にものごとをテキパキとこなすが、竜人のため地上での暗黙ルールに疎いところがある。

「訪問着があれば。……どの立場で行けばいいのか」

「紫暮様の奥様として行けばよいかと?」

私の不安に竜人の恋愛観をもつ那波は、なぜそんなに憂いてるのかと不思議に思うだけ。


価値観が”番”主義。

番なのだから夫婦も同然、愛し合って当然なのだから何を悩むのか理解できなかった。


「以前、蛍さんが選んだワンピースも素敵です。ただ先方は和装で行うかと思いますので、合わせた方が無難かと」

「そうですよね……」

(孝成さんはどういう気持ちで結婚を了承したのかしら? 本当に心が通じてのこと?)


孝成は出会った当初こそ、私にも優しく接してくれたが、大きくなるにつれあえて近づかないよう距離をとることを選択された。

大人の事情も察しているので特別傷つかなかった……というより、諦めが強かったという惨めな記憶だ。


(私なんかより、久美子さんの方が紫暮様と並べば綺麗だろうな。私より那波さんの方が……)

乳子とはいえ男女。

スラリと細く、中性的に映えた顔立ちの那波に見惚れてしまう。

視線の圧に気づいた那波は苦笑いを浮かべて首を傾げ、目元にかかった前髪を指で梳いた。