あやめも知らぬ恋

玄関を抜けて飛び石を渡り、門を開く。

郵便物を運ぶ中年男性に頭をさげ、一通の手紙を受け取るとハッとして前のめりになった。

「あの……!」

去っていく郵便局員に”楓のこと”を尋ねようとしたが、すでに道の角を曲がっていなくなっていた。

あちこち飛び回る郵便局員ならば噂くらいは耳にしているかもしれないと期待するが、なかなか思うような情報は得られない。

蛍を連れて宛もなく探し続けるのは実際問題難しい。

諦めて屋敷の中に戻ろうとし、手紙の宛名を見て足を止める。


「私宛?」

丁寧な宛名書きには私の名前が。

見覚えがあると不思議に思いながら、何気なく差出人を確認した。

「南条……久美子」

すぐに久美子だとわかり、一気に血の気が引いた。

心臓がバクバクと激しく音を鳴らし、まるで私に今すぐ開けと圧をかけてくるみたいだ。

夏の暑さにやられたのか、足をふらつかせ土塀に背中を打ち付けると、痛みを合図にいそいそと手紙の封を切った。


”ご連絡が遅くなり申し訳ございません。この度、西賀家の次男・西賀 孝成様と結納の儀を執り行うこととなりました。つきましてはお義姉様たちにもご出席いただきたく――”


「結納……?」

なんだろう、この違和感は。

一か月前に銀座で遭遇した時は恋人がいそうに見えず、むしろ紫暮に興味を抱いていたようだった。

たった一ヶ月で神前式まで行えるほどのスピードで事が進んだのか?

西賀家とは、南条家と同じ巫女の一族だ。

そこの次男・西賀 孝成は久美子の幼なじみであり、気弱ながらも穏やかな性分の人だった。

気が強くても巫女としての責務は全うし、堂々と生きる久美子に憧憬し、片想いをしているのは遠目でも見て取れていたが……。


(孝成さんの気持ちが通じたの? 告白する気はないと思っていたけれど)