あやめも知らぬ恋


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さっそく入った洋食店。

混雑時間は過ぎたようで、すんなりと席に案内され店員おすすめの”オムライス”を食べることになった。

キレイな楕円形の卵にお米が包まれ、お皿を飾るように”ケチャップ”というトマトソースがかけられている。

まるで宝石のような輝きに、蛍は目を輝かせてうずうずしだす。

教わったとおり、卵を割って”スプーン”に一口分よそって息を吹きかけ冷ますとそっと蛍の口元に運んだ。


一瞬、自分で食べられると不服そうに眉をひそめたがオムライスの魅力には抗えない。

パクリと口に頬張って、食感を確かめるようにゆっくりと噛みしめていた。

やさしい眼差しをして蛍に水を飲むようにうながす。
がっついていた蛍は喉もかわいたようで、硝子のコップを受け取るとぐびぐびと一気飲みをした。


「おいしい!」

パッと表情を明るくして、私からスプーンを受け取るとガツガツと食べ始める。

まだキレイに食べることが不慣れなため、口の周りにケチャップがつくたびに私は紙ナプキンで拭っていた。


「よかった。蛍ちゃんのお気に入りになったかな?」

「うん!」

夢中で食す様子にほっこりとして、私もようやく味わう余裕ができた。

卵で米を包んだ料理だが、ここまで艶々に作るには卵が何個必要だろうか。

蛍のためにも作れるようになりたいと考えていると、向かい側に座った紫暮が穏やかな笑みを私に向けた。


「卵、買って帰ろうか」

「良いのですか?」

「蛍が喜ぶならいくらでも」

やさしい眼差しをして蛍に水を飲むようにうながす。
がっついていた蛍は喉もかわいたようで、硝子のコップを受け取るとぐびぐびと一気飲みをした。

「ズルいです。紫暮様は蛍ちゃんに好かれようとしていらっしゃる」

「少し大きな娘ができたと思えば。……下心はそれなりにあるぞ?」

ニヤッと意地悪く口角をあげる紫暮に、私は不意打ちを食らって熱を冷まそうと手の甲を押し付けた。

目を合わせることはむず痒い。

耐えかねてオムライスを口に運び、目を閉じ味わうことに意識を集中しようとした。

私を番と認識しているからとはいえ、こんなにも好意を向けられた経験がない身としては恥ずかしいことばかり。


「それと、菓子パンでも買って帰ろうか」

「菓子パン……ですか?」

「銀座ではあんパンという菓子が人気らしい。せっかくだ、他に食べたいものがあれば言ってくれ」

「……ありがとうございます」


手をとめて、精いっぱいの思いを告げる。

紫暮の目が見開かれ、目が合うと強張った心がほぐされる微笑みが返ってきて、私は喉が詰まる思いにそっと指先を当てた。

その日は不慣れな洋服であったおかげか、それから食欲が進むことはなく……。


後日、紫暮と蛍、那波の四人で美味しくあんパンを食べ、幸せな時間を過ごすのだった。