「わかった。なら契約は変更だ」
そもそも間違いからはじまったのだから、契約を破棄するのがいい。
蛍のことはなんとかしなくてはと、余裕のない思考をはたらかせてこれからを憂う。
「番でなくても花純が好きだと証明する。だから花純はもう鬼子を言い訳にするな」
息を飲む。
それが証明されたらどんな表情をすればいい?
どう考えても紫暮の未来を巻き込む忌むべき存在なのに……。
(私が堂々と生きれたら、蛍ちゃんは生きやすくなる?)
そんなことはやってみないと答えが出ない。
蛍を大切に想うならば、私は一歩を踏み出してもいいかもしれない。
(蛍ちゃんを言い訳にして、私の気持ちはどこに……)
首を横にふり、両手で紫暮の顔を包み込む。
「いつのまにか元の顔に戻されてますね」
「大事なことは隠した自分で言うべきではないと思っただけだ」
なかなか信用してもらえないことに紫暮は拗ねてしまい、うすらと頬を膨らませている。
かわいらしいと笑って見ていると、紫暮の瞳が大きく開いて私を映し込み、みるみると顔を全面に赤くして視線を逸らした。
「味噌汁」
「えっ?」
「花純の作るものは美味い。那波が作ると深みがない」
そんな風に言われたら困ってしまう。
紫暮の頬の赤みが伝染し、私の耳まで色を染めにかかった。
かつお節を削って出汁をとってよかったと、じんわりと内側で熱が灯る。
「お味噌汁一つとっても深みが変わりますよ。出汁やみそ、組み合わせで好みが分かれますから」
「ならいろいろ試そうか。時間はまだまだあるからな」
たまに紫暮と時間の価値観が異なる気がして愛想笑いしか出来なくなる。
私は蛍がすくすくと成長してくれるよう、今が必死で未来を見つめるのが難しい。
楓が帰ってきたら? 蛍は楓のもとへ行くだろう。
そのとき私はなにをしているのか?
紫暮の妻として笑っているのだとしたら……鬼子の憂いを振り払えていると思うしかなかった。



