あやめも知らぬ恋

「四年くらい前に、急にいなくなって。ずっと帰ってこなくて」

何も言わずにいなくなってしまった楓。

最後に見たはにかんだ姿を思い出し、胸が苦しくなって花純は嗚咽をあげて涙を流す。

「待ってても帰ってこなくて。何の情報もなくって。お母様も亡くなっていたからずっと一人で待ってたんです」

声が詰まってかすれる。

頬に雫が伝うたびに青年は親指で拭った。

「十日ほど前に、楓の娘だと名乗る蛍ちゃんが南条家に引き取られました。母元で暮らしていたらしいのですが、なぜか南条家に来て……」

あまりに不可解な蛍の扱い。

母親がいたにも関わらず、南条家で引き取らなくてはならなかった理由が見えてこない。

今でこそ少しずつ反抗心をみせてくるが、最初は表情もない虚無的な子だった。

楓の面影がある姿に花純は悔しさと悲しみを抱き、蛍を迎え入れた。

「楓が子どもを見捨てたなんて思いたくない! だけど楓は帰ってこない! ほ、蛍ちゃんとも会ったことがないなんて……」

父親の愛情を知らない蛍。

父親の顔を知らない自分たちに重なり、私は蛍に同じ目にあわせる楓が信じられなかった。

楓らしくない行動に、なんとか愛情をもつ楓を信じたくて待ち続ける。

今、蛍のもとから離れたら私は二度と自分を許せないと、蛍にとって信じられる存在をつくってあげたいと泣きじゃくった。

「楓のバカ! サイテー! ちっ……父親のくせに、な、何してるのばかぁ!」

信じられない。

三歳児なんて歩けるようになって、少し言葉を覚えて、無邪気に走り回って多感に学んでいく時なのに。

一番そばにいなくてはならない両親の不在。

あのやさしくて強い楓が子どもを見捨てたなんて信じたくなかった。