あやめも知らぬ恋

「花純、待て!」

人目を避けるには隠すのが最善。

髪や瞳と違って器用に隠せないならば私と同じ手段をとるしかない。

外套があれば尾が出ても隠せるはずと、心急くままに走りだすも慣れぬパンプスに足をつっかえてしまった。

「きゃっ!?」

「花純っ!!」

パンプスのベルトが切れ、転倒しそうになった私を後ろから追ってきた紫暮が支える。

顔をあげると、紫暮はいつのまにか外套を着用しており、尾を隠しきっていた。

腰に手を回され、密着する距離で紫暮が私を睨みつける。

「一人になるな! 危ないだろう!」

「ご、ごめんなさ……」

ジワリと涙がにじむも、泣いてはダメだと己を叱咤して謝罪をする。

紫暮は悩ましげに眉をひそめ、ため息を吐くと私の身体を引いて抱きしめた。

驚き入った花純は紫暮から離れようとするが、無理に抑えられて心音を耳にしてしまう。

通常の鼓動にしては少し早い。

緊張した時に感じる独特な刻みに耳を疑い、顔をあげて紫暮を見つめた。


「いや、ムリだ。番とはこうも放っておけないものか」

「し、紫暮様……?」

「我慢する。我慢してみせるが……!」

「ひっ!?」

脇下に手を回されると肩が浮き、反対の首の側面が目立ってあらわになると紫暮はそこに思いきり噛みついた。

予想外の行動で愛情をみせてくる紫暮に、理解が追いつかずにアップアップとするばかり。

生ぬるい感触が首を撫でると声が漏れ、足の震えは理由を書き換えていた。


「双子の弟が見つかったらもう止めないからな」

「止めないって……そんなことにはならないかと……」

「なる。蛍が親元に帰れたら安心して歯止めが効かん。……余計な約束なんてするんじゃなかった」


紫暮にとって良いことなしの現状。

私が番でないと判明すれば屋敷に置いておく理由がない。

楓を見つけるまで、蛍の面倒をみたい。だから屋敷に置いてほしい。

それが守られたら番として正式に婚姻を結ぶ。

紫暮に迷惑をかけるしかない契約に罪悪感がつのり、首を横に振った。